THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行12 10/11


■酒も仕事のうち

宮田の課の忘年会は天皇誕生日の前日に行われた。

平成に入ってもう10年以上経つと言うのに宮田には、まだ12月の天皇誕生日はピンと来ない。若い連中が多い宮田の課では、週末に当たるクリスマス・イヴに忘年会をやるのだけは避けてほしいという暗黙の了解があった。さすがに例のOL3人組も課の忘年会ともなると欠席するわけにはいかない。

居酒屋の奥座敷で乾杯を終えると、若い連中は勝手に輪を作って楽しみ出す。年長の宮田は何となく置いてけぼりだ。隣にいる部長とひたすら落ち着いた会話をする程度。あいにく三村とは長いテーブルをはさんで反対側に座らされてしまった。最も仮に隣にいたとしても、この騒ぎの中で2人きりの会話などできるはずもないのだが・・・。

「課長、一杯!」

ビールを抱えてやって来たのは柳だ。すでに真っ赤な顔をしている。

「お! すまんな」

宮田は酒好きの方ではなかったが、決して飲めなくはない。仕事の一環として飲めるようにした・・・という感じだ。

「じゃ君も」

「そいじゃあ」

Yシャツを腕まくりした柳は、宮田の注いだビールをひと息で飲み干した。その飲みっぷりは豪快だったが・・・宮田は思わず眉をひそめた。

「おい・・・あんまり飲み過ぎるなよ」

自宅の玄関でとぐろを巻いた柳の姿がよみがえる。

「大丈夫っスよ、今夜は大丈夫っス・・・。それに忘年会なんスから、まぁいいじゃないっスか」

とは言うものの、一軒目の店を出る時にはもう柳の丸坊主が少し伸びた頭にはネクタイの鉢巻きが巻かれていた。

毎年2件目は宮田がおごるのが通例だ。あちこちの課の忘年会に出て疲れ気味の部長も、義理は果たしたという感じのOL3人組も帰宅の徒についたが、課の連中はまだ5〜6人残っている。
その中には三村の姿もあった。そして、まだ飲む気か・・・と言いたくなるような柳の姿も。

毎年毎年繰り返される光景なのに、行った店で誰と何の話をしたのかは覚えていたためしがない。忘年会だから・・・それでいいのかもしれないけれど、酔って楽しむということができない宮田にとっては、何となく時間がもったいないような気がしなくもない。無論、仕事とわりきってつき合いもするし、ひょっとしたら、この後、三村と2人になるチャンスが・・・あるかもしれない。


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