THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行12 9/11


■息子のプレゼント

自宅に帰るなり宮田は妻に、まず手にした紙袋の中味について説明をした。うがいよりも早く・・・!。また何か誤解があったのでは、たまったものではない。

「・・・大変ねぇ、木下さん」

水晶玉の一件で助けてもらって以来、妻は木下にに好意的だ。
宮田がポツリと言った。

「まったく・・・年の瀬になってな・・・。いっそ水晶玉でも売ればいいのに」

その言葉を聞いた妻の動きがピクリ止まった。宮田にとってはすでに笑い話と化している水晶玉の一件も騙された本人である妻にとっては、まだかなり後遺症があるようだ。

「まぁとにかく、そんなわけですまんが・・・今年のクリスマスの夜は木下の娘のところへ行ってくるよ」

「そうですか」

ようやく妻が動き出した。

「パーティーにいられなくて悪いけど・・・」

「パーティー?」

妻が聞き返した。

「どこでやるんです?! パーティー?」

今度は宮田の動きが止まった。

「あれ? やるんじゃないの? うちで。去年も確か・・・」

「そんな予定ありませんよ。受験生かかえてんのに」

「・・・それも・・・そうだな」

宮田は少しばかりさびしさを覚えた。自宅でのクリスマスパーティーに拘束されるのがつらいと思っていた自分が本当は一番それを楽しみにしていた・・・ということを悟った。

夕食を終えた宮田は、ひさしぶりに受験生の部屋を訪ねた。珍しくコーヒーなど手にして・・・。換気のためか、2階の部屋のドアは半開きになっている。両手でオボンを持った状態には都合よく、宮田はそのままスーッとノックもせずに室内に入った。

「良樹、やってるか?」

机に向かった良樹は手にしてた何かを見つめてボーッとしていたが、とくにあわてる様子もなく振り返った。机の上にはノートや参考書が敷き詰められている。

「ああ、とうさん」

「ホレ、コーヒー」

「・・・ありがと」

宮田は広げられた問題集をのぞき見て、少し懐かしい気持ちになった。最初の1問・・・これなら何とか解けそうだ。第2問は・・・さっぱり、わかりそうもない。

良樹は手にした物を目の前に置いて、コーヒーをすすった。

「何だコレ? ・・・お守りか?」

宮田は、その木でできたヒモのついたアクセサリーのような物を手にとって尋ねた。

「携帯の・・・ストラップ」

「携帯って・・・携帯電話の?」

「そう」

「へぇ〜、ずい分シャレた感じだなぁ・・・。ははぁ、さては彼女へのクリスマス・プレゼントだな?」

宮田は息子を少しからかうように言った。だが良樹はきわめて冷静である。

「違うよ。・・・彼女にもおそろいのヤツあげたんだけど・・・」

「おそろい? だっておまえ携帯なんか持ってないだろ?」

コーヒーをもうひとすすりした良樹は決心したように言った。

「持ってないから・・・。あげるよ、それ」

「え? いいのか?! だって彼女とおそろいなんだろ?」

「いいよ・・・別に。とうさんにクリスマス・プレゼントだ」

そう言うと良樹はコーヒーカップを置いて鉛筆を握り始めた。

彼女との間に何があったのかはわからない。しかし、それを振り切って勉強に向かう息子を見ると、宮田はとても追求する気にはなれなかった。

良樹はノートに向かったまま言った。

「若い人はみんな付けてるよ・・・ストラップ。それ結構珍しいヤツだから、付けてるとモテるかもな?! ・・・モテちゃ困るかな?」

「親をからかうな」

そう言って良樹の部屋を出た宮田は・・・早速、自分の携帯電話にストラップをつけてみた。


Next■