THE THEATER OF DIGITAKE 初めての不倫旅行12 7/11 |
■伊達男の変貌 宮田の会社に木下から電話があった。 木下と話すのは、三村の自宅で携帯電話に連絡を受けて以来のことだ。今日は珍しく携帯にではなく、会社の番号にかけてきた。 「宮・・・忙しいところ悪いんだが、ちょっと会えないかな?」 その謙虚な姿勢も木下にしては珍しい。帰りに会社の近くにある立ち飲みコーヒーの店で待ち合わせることになった。そこは、かつて木下と再会した場所だ。 予定より仕事が早く切り上がった宮田は180円のコーヒーを頼んで車道がよく見渡せる席に腰を下ろした。どうせヤツは、あの派手な黄色いスーパーカーに乗ってくるに違いない。この場所なら来たのがすぐにわかる。 ところが約束の時間が過ぎて、コーヒーがすっかり底をついても木下のスーパーカーは現れない。渋滞でもしているのか・・・と思っていると後ろからポンと肩を叩かれた。 「木下?」 それは確かに木下だったが、いいかげん無精髭ものばしっぱなしで髪もボサボサ・・・。表情も少しやつれていて、いつもとは違いすぎる。 愛人と女房に逃げられるとここまで変わってしまうものか・・・。宮田は少しギョッとした。 「すまないな・・・宮」 「別にかまわないが。じゃ出ようか・・・」 そう言いかけた宮田の肩に再び木下の右手がかかった。 「いや、いいんだ。ここで」 木下は空いたテーブル席の椅子の上に手にした紙袋を置くと、さっさとコーヒーを買いに行った。仕方なく宮田もコーヒーをおかわりすることにした。 「どうした? その後。あの娘・・・セイコ・・・とか言ったかな」 「ああ」 木下はジャンパーのポケットからテーブルの上にタバコを放り出した。いつもの赤い箱ではない、青い箱・・・ハイライトだった。 「・・・どうも帰っちゃったみたいなんだよな・・・田舎に」 「そうか・・・仕方ない・・・かもな。でも、考えようによってはよかったんじゃないか? いつまでも今までの生活を続けているわけにもいかないだろうし・・・」 木下は、ひたすら無表情にタバコをふかしている。 「・・・で、奥さんと子供は?」 「・・・出てったきりだ」 「フ〜ム。それが困った問題だな」 「いやぁ・・・」 宮田の予想に反して木下はニヤリと笑った。 |