THE THEATER OF DIGITAKE 初めての不倫旅行12 4/11 |
■クミの家 次の日、学校から戻った良樹は自転車にまたがって最寄りの駅からひとつ先にある歯医者に向かった。年上の彼女・・・クミの実家である。 昼間来るのは今度が初めてだ。 途中、クミの家の50mほど手前で自転車を止めた。ここは良樹が初めてキスを体験した場所。最も麻酔注射のおかげで何の感覚も残ってはいないけれど・・・。目の前まで迫ったクミの顔が幻想のように思い起こされる。その場所に立った良樹は、あれが確かに現実だったことを確認した。 待合室にはひと組の親子が座っていた。3つくらいの男の子と若い母親だ。 診察券を出して、良樹もその向かいに腰を下ろす。男の子が雑誌が積まれている棚から一冊の絵本を取り出して母親に渡すと、チョコンとそのひざに乗った。母親が広げた絵本のうしろをよく見ると大きくマジックで書かれた子供の字が読みとれた。 『まえじまクミ』。『ミ』がほとんど『三』に見える。 やがて診療室のドアが開き小学生くらいの女の子が出てきた。どうやら絵本を読んでもらっていた男の子のお姉ちゃんらしい。駆け寄った男の子が「お姉ちゃん、痛かった?」と聞くと、女の子は得意そうな顔をして「あたし、泣かなかった」と言って弟の尊敬を集めた。 良樹は年上の彼女にも、この子くらいの頃があったかと思うと何だか不思議な感じがした。 「宮田さん!」 受付から声がした。クミの母親の声だった。 のっそり立ち上がった良樹は、少し緊張したおももちで母親に挨拶した。 「この間は・・・どうも。お世話さまでした」 「ああ! クミのお友達のね。はいはい。・・・じゃ、中入って」 今出てきた女の子の治療費計算に追われる母親は案外素っ気なくそう言った。 診療室に入ると、クミの父親のほかに、あの晩には見かけなかった白衣姿の女性がひとりいた。アシスタントのようだ。そのアシスタントの女性に導かれて、あの晩座ったのと同じ場所に座る。あの晩この場所に導いてくれたのはクミだった。クミと比べるとアシスタントの女性は何とも無愛想だ。・・・今は関係ないことだけど。 口をゆすいでクミの父親が来るのを待つ。意外と優しい人だったという印象はあったものの、やっぱりドキドキする。 「お! 来たか。・・・どうだ、その後。痛みは?」 「おかげさまで痛みはなくなりました」 「じゃ、口あけて」 口の中をミラーでかきまぜるようにして見まわしたクミの父親は、早速、ドリルを取り出した。イヤ〜な音が響く。 「イデデ!!」 痛みが再発した。こめかみまでシビレル感じだ。 「おっと、痛いか。・・・麻酔しといた方がいいな。林さん、麻酔用意して」 痛みはない方がいいに決まっている。しかし良樹にとって麻酔注射は、どうも気が進まないのも事実だ。 |