THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行12 3/11


■宮田家の食卓

三村に話をする前に、宮田にはクリアしておかなければならない問題があった。もちろん家庭のことだ。

去年のクリスマスは義妹の世理子も呼んでクリスマスパーティーをした。今年もそんな予定があったら・・・三村との約束をバッティングさせるわけにはいかない。

夕食のテーブルに家族3人が集まるのは久しぶりのことだった。とは言え、共通の話題で盛り上がるわけでもなく、ただテレビを見ながら箸を運んでいるだけ。

この時間、チャンネルはニュースが最優先だ。物騒な話を聞きながら食事をするのは本来は胃に良くないのかもしれないが、そんなことを気にする現代人はまずいないだろう。
時折、妻は「あらやだ」だとか「怖いわねぇ」とアナウンサーの言葉に相づちを打ちながらテキパキとおかずを口に運んでいる。

テレビでは、保険証を騙しとった男がサラ金で金を借りようとして捕まったという詐欺事件のニュースが流れていた。

「こんなことで保険証取られるなんてマヌケだなぁ」

と言った宮田がブラウン管から視線を移すと、妻は黙って下を向いた。水晶玉の一件が頭をよぎった。あわてた宮田は続けざまにこう言った。

「・・・しかし、アレだな。相手はプロだからな気をつけないと・・・」

妻はゆっくりベッタラ浸けを噛んだ。ポリッ。
ニュースなど、まともに見ていないと思っていた良樹が思い立ったように言った。

「そういえば、保険証出してくれよ」

宮田は思わず茶碗と箸をテーブルに置いた。

「何だ? 小遣いならこの間やったばかりだろ」

「何言ってんだよ。歯医者だよ、歯医者」

「何だ・・・歯医者か。痛むのか?」

「いや、今は・・・。でも、しばらく通わなきゃなんないから」

「試験の時に痛くなったら困るからな。ちゃんと治しておけよ」

「わかってるよ。・・・ごちそうさま」

良樹はテーブルを立って、2階の部屋に戻って行った。

「あなた、おかわりは?」

「いや、もういい。ごちそうさん」

「あなた・・・」

「お茶ならまだ入ってる」

「良樹にいつお小遣いあげたんです?」

「!・・・いや、この間さぁ、ちょっと。ホラ、駅まで傘届けてもらったりしたし」

「そうだったんですか」

「そうだったんだよ、ハハ」

Yシャツについた口紅のことで良樹に助けてもらったとは、とても言えない。宮田はこの話題が出てしまったところで、クリスマスのスケジュールを続けざまに尋ねることに何だか気が引けてしまった。


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