THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行11 13/14


■歯科医の親心

これではまるで拷問だ!
良樹の脳裏には、昼間ジョイポリスで撃っても撃っても押し寄せて来るゾンビの群が浮かび上がってくる。
しかし、今の良樹に銃はない。ただ、両手をギュッと握りしめるのが精一杯だ。

頭蓋骨に振動が伝わってくる。ドリルは自分の歯を削りはじめた。

「・・・まぁ、口を開いてちゃ答えるわけにもいかんな」

クミの父親は、そう言っていったんドリルを引いた。

「よし、じゃ一回、口をゆすいで」

椅子が起こされた。良樹はスチールのコップの水を口にふくんだ。

「クミは横浜に行くって言ってが・・・みなとみらいあたりに行ったのか?」

良樹は自分の早合点を恥ずかしく思った。

「はい。みなとみらいに・・・」

「クリスマスだから・・・飾り付けがキレイだったろ?」

「はい」

再び椅子を倒された良樹は、その後はやや安心して拷問・・・ではなく診察を受けた。

虫歯の応急処置が終わった。
まだ麻酔が効いているので本当に痛みがとれたのかどうかは定かではなかったが、とりあえず楽にはなった。

「受験生なんだから・・・。虫歯は早く治さんといかんぞ」

クミの父親は、そう言って奥の部屋に入って行った。

「遅くに・・・ありがとうございました」

と良樹が声をかけると、父親は振り向きもせず右手を上げて見せた。


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