THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行11 8/14


■父親ゆずり

みなとみらいにも遊園地はあったが、ゲームはさんざんやってきたばかりだし、軍資金も少なくなってきていた。
だが、どこを見渡しても美しいイルミネーションが輝く街並みは、見ているだけでも飽きない。
新しい高層ビルが建ち並ぶこの一帯は、ビル自体が巨大なクリスマスツリーのようだ。
まして片腕にシッカリとつかまるクミを感じていると、いつまでもこのままでいたい・・・と良樹は思った。

欲を言えば、もっと2人きりになれる場所に行きたい。
そう思い始めた良樹の目に入ったのは観覧車だった。

観覧車乗り場にはカップルばかり数十人の行列ができていたが、臆することなく2人はその後についた。
ようやく観覧車に乗り込んだ時には、あたりはすっかりうす暗くなっていた。

トビラが閉ざされると、どこからともなく鳴り響いていたクリスマスソングが急に遠ざかる気がした。
これから観覧車が1周まわる間だけは、2人きりの世界だ。

しかし、クミを先に乗せた後、うっかり彼女とは反対側の座席に腰を下ろしてしまった良樹は、今までよりかえってクミとの距離が空いてしまったことに気がついた。
とは言え、座り直すのも何だか恥ずかしいし・・・。

「クミちゃん・・・これ、クリスマスプレゼント」

良樹はコートのポケットから小さな包みを取り出して、向かいに座るクミに渡す。

「何? 開けていい?」

クミがメリークリスマスというシールが貼られた袋を開くと、中から木製のアクセサリーが着いたヒモが出てきた。

「携帯のストラップ?」

「うん。手作りのね」

「ありがとう! 早速、付けてみよっかな」

クミがバッグから携帯電話を取り出すと、そこにはすでに5〜6個のストラップやらキーホルダーがゾロゾロとぶら下がっていた。
良樹からもらったストラップを付けようにも、どうにもうまくいかない。

「ゴメ〜ン、ウチ帰って一回はずしてから付けるわ」

「うん」

「はずしたヤツあげよっか・・・あ! そうか、良樹は携帯持ってなかったっけ」

「うん。でも高校に入ったら買ってもらうよ。・・・だから本当言うとお揃いのストラップ買ったんだ」

「良樹・・・親に買ってもらうなんて言ってないで、自分で買いなさい。バイトでもして」

「・・・・・」

「良樹・・・。さっき良樹が話してたおばさん・・・。あんた、そのおばさんのこと好きでしょ?」

「うん。昔から可愛がってもらってるし・・・」

「・・・だと思った」

「何で?」

「だって、そのおばさん。何だかワタシに似てるモン」

良樹が言葉につまっていると、クミは立ち上がって良樹の隣に座り込んだ。
彼女との距離はゼロになった。

ゆっくり彼女の方を見ると、クミも良樹の顔をジッと見ていた。
互いの心臓が高鳴っているのを2人とも強く感じとっていた。

もし、良樹が慣れてさえいれば、この時何の抵抗もなく、そのまま彼女に顔を近づけていけたに違いない。
だが、何せ初めてのシュチュエーション・・・しかも宮田の息子である。

いったい何秒・・・何分の間、そのままたじろいでいただろう・・・。

ガタン!

観覧車は1周を終えて、無情にもトビラは開かれた。


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