THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行11 5/14


■息子の意地悪

雨に濡れた駅前の歩道は、10mおきほどの間隔で立った街頭の下だけが丸く光って見える。

長身の男の陰が近づいて来る。
一番、手前の街頭の下まで来たところで、それが良樹であることに宮田はようやく気づいた。
中学3年ともなると、体つきはもういっぱしのオトナだ。
宮田は息子の成長ぶりにあらためて驚かされた。

宮田の前で立ち止まった良樹は「ん」と言って傘を差し出した。
いっぱしのオトナにはなってきたものの、息子は何とも無愛想。
娘なら「おかえりなさい」のひと言くらいあるだろう・・・いやいや、娘だったらこんな夜更けにひとりでオモテを歩かせるわけにはいかない。
とりあえず息子でよかった。・・・今夜のところは。

「お、すまん」

傘を開いた宮田は息子と2人、自宅に向かって歩き出した。

つい、この間も妻と2人きりで久しぶりにこの道を歩いたが、息子とこうして肩を並べて歩くのも、すごく久しぶりのことだ。
かつては自分の歩く速度に合わせようと、チョコマカ早足で歩いていた息子も今は自分より歩幅が広い。

「良樹、受験勉強は・・・進んでるのか?」

「まぁね」

こんな機会は珍しいこともあったし、寒さを忘れたいこともあって宮田は息子に話しかけるが、どうも話は続かない。

「今日は・・・どこ行ってたんだ?」

「ちょっとね」

「当ててやろうか?」

「・・・・・」

「彼女と会ってた!」

「・・・ブーッ!」

「じゃあ・・・彼女に渡すクリスマスのプレゼントを買いに行ってた!」

「! ・・・」

「当たったろ?!」

「・・・まぁね」

自宅の前まで来て、傘をたたもうとした瞬間、宮田は肝心なことを思い出した。

「おい、良樹。留守中に誰かから電話なかったか?」

「そう言えば、あったな・・・木下さんとか言う・・・」

「お前が出たのか?」

「ああ、かあさんはもう寝てたからね」

「そうかぁ」

宮田は少しホッとして、玄関に入った。
靴を脱ごうとしていると、後に立った良樹が肩に鼻を近づけて来た。

「あ! 女の臭い」

「!」

靴を脱ぎかけたまま思わず硬直してしまった宮田のわきをすりぬけていった良樹は、階段を上りながら言った。

「・・・ウソだよ」

グラッとした宮田は下駄箱に手をついて、ひと呼吸すると、ようやく家に上がることができた。


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