THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行11 4/14


■冷たい雨

携帯電話を握りしめたまま、考え込んでいた宮田に三村が声をかけた。

「何か大切なご用事があるんじゃありませんか?」

「うん、いや・・・」

そう言いながら、やっぱり時計が気になった宮田は、つい腕をまくってしまった。

「もう10時近いのか・・・ずい分長居をしてしまったな」

「私は・・・かまいませんけど、課長のお宅の方は?」

「しかし、まだ肝心のキミの話を聞いていないし・・・」

「いいんです。急ぐ話じゃないし、それに課長と楽しくお鍋をつついてたら、もうどうでもよくなっちゃって・・・」

アパートの玄関口に立った宮田は、駅まで行くという三村を制止して言った。

「今夜は本当にごちそうさま。・・・キミの悩みは必ず聞くからね、必ず」

「・・・はい。課長、お風邪がぶり返さないようにお大事にね」

「もう、大丈夫」

とは言ったものの、夢のような空間からオモテの暗闇に放り出されると、イッキに体がシンまで冷えた。

土曜の夜の電車は空いていた。
暖房はきいているはずだが、人が少ないせいか寒々としている。
自宅の最寄り駅につくと雨が降り始めていた。

薄着のうえに冷たい雨にあたって帰ったのでは、間違いなく風邪がぶり返す。
ここから自宅までは歩いて15分程度。
電車に客が少なかったわりには雨のせいで、タクシーにもそこそこ行列ができている。

宮田は仕方なく傘を届けてもらうべく、自宅に電話をかけることにした。
呼び鈴が8回鳴ったところで、ようやくつながった。いつもは4回で出るのに。

電話口に出たのは息子の良樹だった。

「良樹、かあさんは?」

「寝たよ、早めに。まだ、ちょっと微熱があるって言って」

この時になって宮田はようやく妻が風邪で寝込んでいたことを思い出した。

「実は今、駅なんだが雨が降ってきちゃってなぁ・・・」

「傘持って行ってやるよ。ちょうど区切りがいいから、散歩がてらに」

「そうか・・・すまんな」

駅の軒先で雨をしのぎながら、宮田は妻のことを考えると少しばかり罪悪感にかられていた。


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