THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行11 2/14


■王道への第一歩

何度も眼鏡を拭きながら湯気のむこうに三村の笑顔を見る。

食事の間は終始なごやかな昔見た映画の話題に花が咲いた。

宮田としては落語の話の方が得意だったが、さすがに若い女性を前にして落語もないだろう・・・と思い、映画の中でも自分が好きな西部劇の話をした。それでも古い話に違いはなかったが、真剣に聞いてくれる三村を前に、ついついジョン・ウエインまで演じて見せた。

「どうも、お粗末さまでした」

「いやいや、本当においしかったよ」

「鍋なんて誰がつくっても同じでしょ?!」

「そんなことないサ。ポン酢の味付けがよかったよ」

「母直伝の味付けなんですけど・・・濃くありませんでした?」

「そんなことはない。ちょうどよかったよ。それにお陰で体も温まったし・・・」

「よかった! でも課長がいらっしゃるんだったらお酒でも用意しておくんだった」

「急に寄らせてもらったんだから・・・充分だよ」

「じゃ今、コーヒーでも入れますから」

三村は鍋を乗せたカセットコンロを手に台所へ向かうと、ヤカンに水を入れ始めた。

すっかり満腹感を味わった宮田は、上体をそらし後ろに両手をつく。
すると、手に何か雑誌が当たった。
なんだろうと思って何気なく手にとってみる。雑誌だ。

・・・『ダ・ヴィンチ』・・・『特集/結婚しないとダメですか? 「愛人」の資格と作法』。

そのタイトルを見て一瞬ドキリとした宮田は吸い込まれるようにページをめくりはじめる。

『誰にでも訪れる?!「愛人生活」』・・・王道は「職場の相手に悩みを相談したら」・・・。

目をまるくした宮田が雑誌に釘付けになっていると、コーヒーカップを手にした三村が戻ってきた。

コタツの上にコーヒーを乗せた三村は、宮田が開いている『ダ・ヴィンチ』に気づいて、うっかり「あ!」と声を上げてしまった。
その声に驚いた宮田は、あわてて雑誌を元あった場所に戻す。

緊張した空気が室内を流れた。

互いにコーヒーをひとすすりした後、宮田はつぶやくように・・・少し震えた声で言った。

「・・・で、前に言ってた相談事って・・・なに?」


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