架空対談 芸達者とは
K「何つってもウチは貧乏でしたからな。私なんぞ6歳で高座へ上がって、7歳で師匠に弟子入り。小学校は4日しか通わなかったんスよ、ハァ」
S「学校があるだけ良いではないか・・・。余の頃など、そんなリッパな制度などござらん。すべて独学じゃ。そなたが学校に行けなかったのは貧乏故かえ?」
K「いやー、痛いところ突かれちゃって。小学校なんてお金がなくたって行けるんですがね。私の場合、友達におだてられて授業中に落語をやっちまったモンだから。先生にもう来なくていいって・・・」
S「それでは、さほど生活の苦労はなかったのじゃな」
K「それが、そうとも言えないんで・・・ハァ。お恥ずかしい話。学校辞めちまったからには本格的に芸人の修行をするしかないってワケで、大阪の師匠んトコに行くコトになったのはいいんスがね。修業時代はすぐに金になるわけじゃなし・・・。大阪で食っていくために、9つくらいまではショーウインドウに入ってマネキンの真似したり、クギ作りやら何やらの職工したり、ずいぶん働いたもんス」
S「それは苦労したな」
K「結局、食えなくて東京に戻って来ちゃったんスけどね。同じ年頃の子供が学校に通ってるのを見ると羨ましかったなぁ・・・。でも、どうせ芸人になるんなら学校は用なしだって、ほっぽり出されちまったし今さら学校へ戻るワケにも行かないし」
S「はて? 生きていくための芸を磨くために、学舎はあるのでは・・・」
K「確かにそりゃそーだ。でもね、本物の芸ってのは学ぶのも大事っスけど、見られることがもっと大事。芸人を磨いてくれんのはお客さんじゃあないスかな、ハァ」
S「それは理解できるぞよ。余の書したものも喜んで読んでくれる方がおった故、宮廷での余の存在が認められもし、歴史に名を残すことができた」
K「ああ、アレね。枕と聞くと眠くなっちまいますけど」
S「ほかにたいした娯楽がない時代では、たいそう人気だったぞよ」
K「そいつは高貴な娯楽で、ハァ。私らの時代の娯楽はもう喋ってるだけでもだめで、こうしてこうしてこうやって・・・ホッ! さて何でしょう?」
S「・・・わからん」
K「何だ、わかんないんスか。作家なんスから、もっと想像力はたらかせてくださいよ。・・・答えは、便秘のタコ」
S「・・・お気楽な娯楽じゃのう」
K「お気楽が好きなんです。お客さまは」
S「余は所詮、宮仕え。主人の名声が高い時は良いが、ひと度情勢が変われば、もろとも都落ち・・・」
K「そりゃあ人気商売だって同じっス。そういう時には新しいネタを出すしかないっしょ?」
S「例えば、どんな?」
K「思いっきり、自分の本名を怒鳴るとか・・・。山下ケーターローっ!! てな具合に」
S「・・・それのどこが面白いのじゃ?」
K「そいつはお客さまが決めてくれますから・・・。さあ!」
S「清原元輔のムスメーっ!! 本名はわからーん!!」
K■柳家金語楼(1901-1972)落語家・俳優 享年71歳
S■清少納言(生没年不明・平安時代)女流作家 享年??歳