W「・・・お父さん、お母さん。先立つ不幸をお許しください・・・」
S「これ、岸壁に立つ娘よ! 待て!!」
W「止めないでください! どうせ私なんか、この世にいなくたって」
S「馬鹿を申すでない! ・・・ここで出逢ったのも何かの縁、そちの悩みを申してみよ」
W「今さら何を言っても始まらないわ、私は世間に取り残された人間ですもの」
S「世間? 何をもって世間と言っておるのか。世の中など、どんどん変わっていくものじゃ。自分で決め込んでしまった狭い世界に生きるべきではない」
W「そんなこと言ったって、今、仕事がなければ生きていけないのよ!」
S「本当に生きることだけ考えれば、どんな仕事をしてでも食ってはいけるだろう?」
W「それじゃあ生きていく意味がないわ。理想のために友達が遊んでいるのを脇目に見ながら、ガリ勉と言われながら一生懸命勉強してきたのに・・・。いざ仕事につこうとしたら、こんな世の中になっているなんて」
S「・・・そちは何のために勉強してきたのじゃ? どんな世の中が来ようと、自らの知恵をもってそれを乗り切るために学んできたのではないのか?」
W「・・・・・」
S「拙者も幼い頃から猛勉強をしたぞ。いや、最初はさせられたと言っていい。今で言うスパルタ教育じゃな。・・・おかげで11歳の頃には、講師として御前講義まで行ったものじゃ」
W「11歳って・・・小学校5年生じゃない?! そんな天才と私をいっしょにしないで」
S「まぁ聞け。書物から学びとれることは、すべて過去のことじゃ。・・・21歳頃からだったと思うが、今度は日本全国を旅して見聞を広げた。しまいに海外への密航も企てたが、これは失敗じゃった。今なら、こんなことはあるまい、世界中行こうと思えば、どこへでも行けるじゃろ?」
W「あなたは、いつの時代の・・・?」
S「世間などせまいものじゃ。・・・しかし、世界はもっともっと広い。その世界を見ずして人生を終えるのは、もったいない話じゃ」
W「・・・確かに、もったいないかも」
S「本当にいい時代だぞ、今は。自分の考え通りに行動しても殺されるわけではないしな」
W「自分の考え通りに行動して殺されるなんてコト、あるの?」
S「あるとも・・・安政の大獄」
W「あなた・・・」
S「吉田大次郎・・・松陰とも呼ばれておるよ」
■自殺志願の女性
(平成6年度の統計では、29歳までの自殺者は、男性2,055人、女性846人で男の方がヤワ?)
■吉田松陰(幕末の思想家・教育者)1830-1859 享年29歳