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Fictional Talk No.035(990502)
架空対談 
用途とは

S「よう兄弟! 景気はどうだい?」

K「さっぱりだねぇ・・・。店の連中は、俺たちを目玉にしようと四苦八苦してるようだが、今どき珍しくもねぇやな」

S「珍しくなくなったってこたぁ・・・もはや生活の一部になったってコトだろ? 最初は、こんなモノに高い金を払うなんて・・・なぁ、ずいぶん言われたモンだったけどな」

K「忘れもしねぇ昭和39年。東京オリンピックの年だったっけなぁ・・・。木島則夫モーニングショーで一躍脚光を浴びたオイラは、新しい豊かな生活のひとつの象徴と言われたモンだ」

S「そうそう。俺が80円。あんたは100円もしたのに、よく売れてたっけなぁ」

K「そりぁ当時は高級化粧落としだったからな。元をただせば第一次世界大戦当時の物不足で、脱脂綿がわりに作られちゃあいたが、時代が豊かになると使い方もかわってくる。その用途開発がピシャリと時代のニーズに合ったってこった。・・・しかし、ロールの方はおめぇさんトコの方が早かったろ?」

S「そうさなぁ、厳密に言えば似たようなモンを作ってたところはあったみたいだが、時代の風にのれなかった。俺っちのところは、その点、売り出した時代がよかった。ちょうど大都市に公共下水道が完備されるタイミングにマッチしたわけだ」

K「手を拭くアレなんかも、おめぇさんトコが最初だったろ?」

S「ここだけの話。ありゃあ、もともとはロールの不良品だったんだぜ。それを手拭き用に売り出しちまったんだ」

K「転んでもタダでは起きないとは、このコトだな」

S「しかしサ。俺んとこは、会社自体が転んじまった」

K「なくなったわけじゃねぇだろ? 吸収合併されただけで」

S「まぁ、お陰でこうして昔の名前で出ていられるんだけどな」

K「お前さんとこがキンバリー・クラークに吸収される前に、日本国内でも十條製紙と山陽国策パルプが合併して日本製紙ができた。当然、その子会社の十條キンバリーと山陽スコットも合併して、今はクレシアになってる・・・。時代の流れってのは、どうなるのかわかんねぇモンだよな」

S「つまり大本からしていっしょになっちゃったんで、今やあんたと俺は兄弟になったわけだ」

K「いっしょになって、数年になるけど、俺たちが同じ会社で作られてるってコトを世間の人は、ちゃんと知ってるのかなぁ、スコッティよ?」

S「気がついてない人が、まだ多いんじゃないか? クリネックス」


スコッティ フェイシャル ティシュー
クリネックス フェイシャル ティシュー
現在は、いずれもキンバリー・クラーク社の登録商標。日本では(株)クレシアが製造販売している。
文中の"手を拭くアレ"とは、ペーパータオルのこと。


参考資料:「はじまりコレクションII」チャールズ・パナティ=著 バベル・インターナショナル=訳
     フォー・ユー=刊
     「昭和・平成家庭史年表」下川耿史/家庭総合研究会=編 河出書房新社=刊

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