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Fictional Talk No.034(990425)
架空対談 
暗号とは

E「わたしゃね、小さい頃は、いわゆるいじめられっ子だった。オヤジは輸入商をしておったから、何不自由ない暮らしだったが、お婆ちゃん子でな。甘やかされて育ったせいもあるかもしれん」

R「私の父は牧師でした。小さな村のことで、同年代の子供もそう多くはなかったから、いじめられることもありませんでしたが」

E「とにかく、友達を作ることがヘタだった。・・・ひとりで空想の世界に入っていることの方が好きだったんだ」

R「私も一人でいることは多かったです。しかし、あなたと違うのは自分の内面ではなく、目の前にあった草木や昆虫たちといった自然を観察するおもしろさに魅せられていった・・・ことでしょう」

E「運動が苦手だったからね。あんまりオモテを飛び回るようなことはせんかった。そういう意味では不健康な少年時代だったな。精神的にも。・・・何せ、初恋の相手は同姓の男。中学2年の頃の話だ」

R「それは確かに自然の摂理に反してますな。物言わぬ植物にさえ、おしべとめしべがあるというのに」

E「いやいや勘違いせんでくださいよ。あくまでもプラトニック。その後はキチンと女性と結婚しとるんだから。・・・だが、小説家になって少年たちを相手にしたのは、どこかそういう気持ちがあったのかもしれんな」

R「あなたの書く小説は、推理小説でしたね。・・・複線がたくさん張られていて、読者は主人公とともに、そのもつれた糸をほどくことを楽しむ・・・という」

E「もともとは飽きっぽい性格でね。ずい分と職業を転々としましたよ。タイプライターのセールスマンからラーメン屋までやった。・・・中学を卒業する頃にオヤジの会社が倒産しちまったんで、学生時代から働くことには慣れてたけどね。金に不自由はしたくないと思って商社に入ったこともあったが、寮生活がいやで、すぐ辞めちまった。ひとりで何かすることが好きなのは変わらない。本を読みあさってくうちに暗号というものに興味を覚えたのが、推理小説の道に入るきっかけでしょうな」

R「暗号・・・。確かに世の中は暗号だらけです。自然界にあるものは、すべて意味を持ってる。無秩序なものなどひとつもないのです。自然界にあるものすべてを分類整理していくことによって、自然の秩序が把握できれば、神の計画を知ることができる・・・と私は信じたのです」

E「幸い推理小説がウケたんで食うには困らなくなった。しかしね、そりゃあそれまで国内には子供だましの推理小説しかなかったからの話でね。だんだん納得できなくなっちまったんだ。だから何度も休筆宣言したましたよ。・・・わたしも晩年はね、こつこつ貯めていた自分に関する記録を整理分類したりね」

R「そこで、あなたの人生の計画は見えてきましたかな?」

E「振り返ってみれば確かに偶然も必然だったんだろうけど・・・。やっぱりカラクリだらけだなぁ」


江戸川乱歩(小説家)1894-1965 享年71歳
カール・フォン・リンネ(植物の分類法を作ったスウェーデンの博物学者)1707-1778 享年71歳


参考資料:「知ってるつもり7/夢と遊びの設計者たち」日本テレビ=刊
     「伝記・自叙伝の名著」自由国民社=刊
     「21世紀こども人物館」小学館=刊

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