K「なになに・・・右の文章の大意を述べよ・・・」
T「こらこら、ちょっとアナタ。今、試験中なんだから! ダメだよ無断で入ってきちゃ!!」
K「キミは、この問題の答えがわかるのかね?」
T「当たり前でしょう?! 教師なんだから・・・。誰です、アナタ? 保護者の方?」
K「そんなことは、どうでもいい。この問題を作ったのはキミかね?」
T「そうですよ。一応ヒナ形はありますけど」
K「じゃあ答えてもらおうじゃないか」
T「だから今、試験中なんだから。答え言えるわけないでしょ」
K「そりゃキミ、答えられるはずはない。・・・だいたい、これは何を試験しているというのか?」
T「もちろん文章の読解力とか・・・」
K「この文章から読みとれるのは、ひとつの事柄だけかね?」
T「そりゃあ、いろんな意味が含まれているでしょうが・・・作者が描きたかった意味を読みとるというのが正しい文章の読み方じゃありませんか?!」
K「明確な意図があって、それを聞いてほしいというなら、その意図だけをほんの一行書けばいい・・・命は大切だ・・・とかね」
T「それじゃあ文学にならんでしょう」
K「命の大切さを解くことを目的とするくらいなら、医者になった方がいいんでね。東大医学部を卒業したボクが文学の道を志したのは、そんなことを言うためじゃないんだ」
T「え?」
K「物語っていうのはねぇ・・・その物語を通して読者に疑似体験をしてもらうことが大切なんでであって、その経験から何を感じ取るかは、人それぞれだろう?!」
T「それじゃあ試験が成り立たない・・・」
K「ボクは別に試験問題にしてもらおうと思って、この文章を書いたわけじゃない」
T「・・・アナタもしかして」
K「安部公房だよ」
■安部公房(芥川賞作家)1924-1993 享年69歳
■サラリーマン教師(教師にこそリストラは必要だな・・・!)