K「これこれ、何をそんなに一生懸命、探しておる?」
O「何をって、ここはハローワークだぜ。仕事探してるに決まってるじゃねぇか」
K「ハローワークとは仕事を探すところかね。休日だというのに、ずい分にぎわっておるので語学学校かと思ったよ」
O「何、寝ぼけたこと言ってんだ、このジイさんは・・・」
K「して、仕事は見つかったのかな?」
O「そんな簡単に見つかれば苦労はないよ。この不景気の時代に」
K「何、不景気? 今は不景気なのか? 街のどこを見渡しても物があふれ、大勢の若者たちまが着飾って闊歩しているというのに・・・。見たところ、キミもそうみすぼらしさはないが」
O「のんきなジイさんだな。さぞかしイイ家柄の出身で、何の苦労もなく、この年まで過ごしてきたんだろうな」
K「まぁ、苦労と言えるかどうか・・・81年も生きるといろいろとあったぞ。まず、ワシが母親のお腹に入ったのは、母親が16の年のことじゃった。最も当時16と言えば、子供を持つのに決して早い年ではなかったが、私生児だったんじゃな。生まれてすぐ里子に出されたワシは、物心ついてから実の母を訪ねたが、母は24歳の若さで亡くなっとった。泣きながら墓参りをした日が昨日のことのようじゃ・・・」
O「そりゃあ大変な苦労だ。しかし母親の愛情には恵まれなくても経済的には恵まれてたんだろ?」
K「どうかのぅ? 若い頃にはアメリカに留学したが語学がダメだったお陰で奴隷として売られたこともあったからのぅ」
O「よく生きて帰って来れたなぁ」
K「そうじゃのう。・・・日本に戻ってからは、教師をしたり、芸者の置屋を手伝ったり、米相場に手を出したりしたが、どれもうまくイカんかったなぁ。役人になってそこそこ出世したが、ドイツ人の悪徳山師にひっかかって、せっかく手にした家屋敷を売り払って、すぐ裏手にあった借家住まいになったこともあったな」
O「まさに七転び八起きだなぁ。そういえばジイさん、あのダルマさんに似てるわ」
K「はっはっは。そうかのぅ。しかし友達というものはありがたいもので、しまいにはまた役人になることができた。で、それを足がかりに政治の世界に入って、大蔵大臣だけで7回はやったかのぅ。・・・そうそう、総理総裁も1回やったっけ」
O「よし、決めた。こんなことしてる場合じゃない!」
K「おいおい、どうした?」
O「東京都知事選に出る!! 政治家になれば食いっぱぐれはねぇだろ?!」
K「確かに食うには困らんが・・・」
O「無責任男に務まるくらいなら、俺だって!」
K「・・・暗殺されることもあるぞよ」
■高橋是清(第20代 内閣総理大臣 2.26事件で暗殺さる) 1854-1936 享年81歳
■ハローワークに仕事を探しに来た男(現在の日本の失業率は4%台 ちなみにイタリアでは12%を越えている)