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Fictional Talk No.015
架空対談 
忠義とは

O「おのおの方、今夜の討ち入り。幸いの雪にて、家々は固く門を閉ざし、盗人は足跡を恐れて出ん。これぞ、神の助け。みごと本懐を遂げられるよう、いざ・・・」

T「お待ちなさい。神が人殺しの手伝いなどするものですか」

O「これはご老体。我らとは逆の白装束。見たところ、その目の輝き、かなり高貴な方をお見受けいたすが」

T「身分などは、どうでも良いことです。それよりあなた方は、こんな夜中に大勢で何をしておられるのです? まさか町の噂通り、主人の敵討ちに行くところではないのですか?」

O「いやいや我ら、見ての通り火消し大名でござる。さ、道をあけられよ」

T「いいえ、どきません。いったいどこに火事があると言うのです? それに、あなた方の亡くなったお殿様、浅野内匠頭様は、地元では火消し大名として名をはせた方。いかに敵討ちとはいえ、人殺しを見過ごすわけにはまいりません」

O「ご老体・・・、いかにも我らは浅野内匠頭の旧臣。火消し装束に身をかため、手に手に武器を持った47名の前に立ちはだかった、そなたの勇気に免じて真意をお話しいたす。我らは、この機会を1年半も待っていたのだ。心ない吉良上野介義央のために無念の死をとげた我が殿の無念をはらすこと、それすなわち家臣の務め。さ、道をあれられよ」

T「いけません。たとえ心が貧しかろうと心から仕え、自分ができることをすることが私の務めなのです。通すわけには行きません。それに皆さん自身が大けがをしたり、ひょっとすると殺されるようなことになるかもしれないのですよ」

O「はっはっはっ。浅野家再興の夢が絶たれた時点で、我らはもはや死んだも同然。そのうえ、いかに戦国の世は過ぎたと申しても、死を恐れているようでは武士は務まりませぬ」

T「まぁ、何て恐ろしいことを・・・。あなた方は神に祝福されて、この世に生を受けてきたのですよ。その大切な命を無駄にするだけでなく、人殺しに使おうなんて・・・」

O「お言葉だが、決して命を無駄にしているわけではござらぬ。みじめな死に方だけはしたくないだけのこと」

T「私は大勢の人たちが、本当にみじめな中で死んでゆくのを目の当たりにしてきました。ですから、その気持ちは充分わかるつもりです。しかし、あなた方がしようとしていることが、みじめな死に方をしたくないからだという考えにつながるとは・・・とても理解できません」

O「ご老体のような女性・・・ことに異国の方には確かに難しいかもしれぬ。う〜ん、おおそうじゃ、来年1月からのNHK大河ドラマ"元禄繚乱"を見てくだされ。そうすれば我らの言い分も少しは理解されるはず。・・・ところで、いったいそなたは何者じゃ?」

T「私の名はアグネス・ゴンジャ。人は私をマザー・テレサと呼びます」


大石内蔵助(浅野内匠頭 家臣 赤穂藩 国家老) 1659-1703 享年45歳
マザー・テレサ(神の愛宣教者会 総長) 1910-1997 享年87歳

□大石内蔵助率いる赤穂浪士が吉良邸に討ち入ったのは、1702年12月14日深夜のこと。


参考資料:「大石内蔵助」五島慎太朗=作 神江里見=画 世界文化社=刊
     「学習まんが人物館 マザー・テレサ」沖 守弘=監修 小学館=刊 ほか

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