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Fictional Talk No.004

架空対談女性とは

A「私の身の回りにいた女性ときたら、母も妹も、いささか心が狭く俗物のように思えます。習慣的な親しさはあっても、相手に感情移入することも、相手がどんな感情に動かされているのかを知ることもできないんです。ところであなたのお母さんはどんな人でした?」

Y「うれしい質問ですね。先生の前ですけど天才です、彼女は! ぼくが幼い頃は、おふくろが生々しくて嫌だったけど・・・パンパンやってたから。おやじが戦死して、苦労して、ぼくらを育てたということもあったろうけど最後まで女をやめなかったというのも事実。すげえ女だった! 激しくって頭がよくて、派手じゃないけど、どこかパッとしてた。美意識がちゃんとしてるって言うか。・・・ぼくは母親似かな」

A「私の両親は、妻というものを男の贅沢品と考えていました。楽な暮らしをしている時だけ持つ余裕があるというわけです。しかし、本当にそうなら妻と売春婦が区別できるのは、妻が有利な事情のおかげで終身契約を夫から獲得できる・・・ということだけになってしまうでしょう」

Y「先生もぼくも、離婚経験がありますよね、一度。ぼくの場合は、女性に対しても仕事に対しても"善人の安全距離"が守れなかった結果だと思っているんです。これ以上いくとヤバイぞ、という距離をつい踏みはずしてしまう。バカだけど、まぁ、まじめなんでしょうね。世の中に対してではなく、自分が感じるものに対して」

A「それは大切なことだと思いますよ。自分の良心に逆らうことは決してすべきではありません。たとえ、国家が命じても」

Y「まぁ、国家がこの女とひっつけ、この女とはダメなんて言うことはないでしょうけど。・・・でも、もし言われたら、やっぱり従えないなぁ。男から笑いとか、喜びとか、傷つき方とか教えてもらっても、全部忘れちゃうもんですよね。だから、女の人が一番、ぼくの場合は大事でした」

A「本物の芸術を特徴づけているのは、創造的な芸術家のうちにある抑えがたい衝動だと思います。その点であなたは女性から衝動の素を得たのでしょう。ただし、創造的な女性はとても少ない。私なら自分の娘を物理学を勉強しに行かせたりしないね。妻が科学を知らなくて本当によかった」

Y「ぼくがやってきたことが芸術と認められるかどうかは別にして、創造という点においては確かに苦しみましたよ。ぼくなんか、頭の中では、それがわかっているつもりなのに、いざやらなきゃならなくなると、どうしても自分にはそれができない。やればやるほど違っていっちゃうということがあって。後で考えてみると、その時、どうも、ぼくは観念的なもの、意識的なものを自分の中に取り込み過ぎていたんですね。頭ばっかり大きくなっちゃっててね。その点、女はそうじゃない。そこに女としているだけで、できてるんです」

A「社会のシステムとして女性にも男性と同じくらいになだらかな道が必要であるとは思いますよ、私も。しかし、どんな結果が出るかについて私は、ある程度、懐疑的です。女性の体の仕組みは自然があたえたもので、男性と同じ期待をすることはできないでしょう」

Y「確かに同じじゃつまらない。ぼくなんか異性だと思ったら相手はどうあれ、それだけでドキドキしちゃいますよ」

A「それはうらやましい話だ。若い頃は、あわゆる人。あらゆる出来事が独自のもののように見えます。年ともとに、似たような出来事がくりかえし起こることに気づくようになります。後になると、昔ほど驚いたりしなくなりますが、がっかりすることも少なくなります」

Y「ぼくの場合、ちょっと逝っちゃうのが早すぎましたからね。ま、やるだけはやりましたけど。ただ、先生。うらやましいなんてご謙遜。モンローとの噂は聞いてますよ」

A「オホン! ・・・生きてる時間が長いとか短いとかは、さしたる問題ではないんです。歴史になってしまえば。問題は生きてるうちに、いかに疑問を持つことをやめなかったか、ということでしょう。好奇心こそが、それ自身の存在理由を持っているんです」

Y「で、どうでしたマリリンは?」

A「彼女と過ごした時は、ずい分短く感じられました。やはり、私の相対性理論は間違っていなかった・・・ということです」


Aアインシュタイン
 
Y松田優作に関する文献を参考に構成


参考文献:「アインシュタインは語る」アリス・カラプリス=編 林 一=訳 大月書店=刊
     「誰にもわかるアインシュタインのすべて」都筑卓司=監修 クォーク編集部=編 講談社+α文庫=刊
     「優作トーク」山口猛=編 日本テレビ=刊

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