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Episode No.099:マリーの選択

20世紀を代表する芸術家のひとり、パブロ・ピカソ。

スペイン出身の彼の本名は、パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・フアン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・シブリアーノ・センティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ。まるで寿限無だ。

そんなわけで、正確な自分の名前も覚えられなかったというピカソだが、その感性と直感力は世界をうならせる。そして、こうした感性は芸術の世界のみにとどまらず、普段の人間関係の中でも、いかんなく発揮されていた。

「君の婚約者を紹介しよう」

ピカソにそう声をかけられたのは、後にフランスを代表する詩人となる、ギヨーム・アポリネール。ピカソに連れられて出かけた画廊でギヨームが出逢ったのは、これまた後に"パリの美神(ミューズ)"と呼ばれた女流画家、マリー・ローランサンだった。

ピカソが睨んだ通り、2人はお互いにひと目惚れ。詩人と画家の恋は、互いの才能を高め合い、2人の人生において最も輝きに満ちた季節をつくりだした。

破局のきっかけは、後になって考えてみれば、つねに些細なこと。

ドイツでの個展が決まったマリーは、その喜びを真っ先にギヨームに伝えたかった。しかし、たまたま仕事に息詰まってイラだっていたギヨームは、個展の口利きである画商に激しい嫉妬を感じ、マリーにぶつけてしまう。

その後、女手ひとつで自分を育ててくれた母親も失ったマリーは、心に空いた穴を埋めるようにドイツ人貴族と結婚。直後に、戦争に巻き込まれて母国フランスを後にした。

別れた後も何かにつけてマリーを思いやっていたギヨームは志願兵となるが、前線で受けた傷がもとで38年の生涯を閉じてしまう。

ギヨームの死後、パリでの生活が忘れられなかったマリーは、離婚して帰国。
その後も仕事では活躍したものの、お手伝いの2人きりの寂しい生涯をおくることになった。

心臓発作のため、72歳で眠るように亡くなったマリー・ローランサンの胸には、遺言通り、赤いバラとギヨームから送られた手紙の束が抱かれ、亡きがらはギヨームと同じ墓地に葬られたという。死んでからのお墓なんて誰と一緒でも関係ない・・・と言われれば、それまでですが。


参考資料:「雑学系230の疑問」テリー伊藤=監修 成美堂出版=刊
     「世界の伝記 マリー・ローランサン」阿部良雄=監修 集英社=刊

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