Episode No.078:エジプト紀行
「素晴らしいものが見えます」
今から76年前の今日、1922年11月26日。
イギリス人探検家、ハワード・カーターが、暗闇に照らし出された黄金の柩を目の当たりにした時の第一声だ。
所はエジプト。ルクソール西岸の通称、王家の谷。
見つかったのは"幻"と言われていたお宝中のお宝、"ツタンカーメンの王墓"である。
実を言うと私は、この王家の谷に行ったことがある。恥ずかしながら新婚旅行での話。
成田から20時間乗ったあげく、飛行機が目的地に着かなかったり、朝8時に到着すると言われていた列車が、3時間も前の5時に到着して、たたき起こされたり・・・と、かなりハードな旅。何組かの新婚カップルはいたが、このツアー参加者に限ってハネムーン・ベビーはあり得ないといった感じだった。
新婚旅行のコースとしてイイかどうかは別にして、噂に聞いたギザのピラミッドには確かに圧倒された。
ホテルを出発した観光バスは市街をぬけると、いきなり砂漠地帯に入る。
「ピラミッドだ!」という声を耳にして窓から外を見るが、視界に入ってくるのは巨大な壁だけ。
バスは、すでにピラミッドの真下にいた。
バスを降りて見上げると、上の方はかすんで見えない。まるで山だ。これが人間の作ったものなのかと驚きが新たになった。
ブロック状の石を積み重ねて作られていることに間違いはないが、その石ひとつが、今乗ってきた観光バスほどもある。まわりに何もないこんな場所で、機械も使わず、どうやったらこれほどの物を積み上げることができるんだろう。
現在は換気が不充分だという理由でピラミッドの中には入れないようだが、この時はまだ入ることができた。しめった空気と、とにかくションベン臭かったのが印象に残っている。
バスはピラミッドからスフィンクス像に移動。
ピラミッドの大きさに圧倒された直後に見るスフィンクスは何とも小さい。スフィンクスごしのピラミッドの写真が使われているカレンダーなどを見慣れていると「騙された」と思ってしまうほど小さい。
ガイドの話では、スフィンクスはピラミッドへ通じる道に建てられた守り神。つまり神社で言えば"こま犬"のようなものだそうだ。
ハワード・カーターが発見した"ツタンカーメン"の秘宝もカイロ博物館で見ることができた。
何千年もの時を越えたとはとても思えない、まばゆいばかりの黄金の仮面は、ガラス越しではあるが、確かに私の目の前50cmの場所にあった。
ツタンカーメン発掘の瞬間について、後年、カーターはこう語っている。
「黄金の柩の上には枯れた花束がひとつ置かれていた。それは若い王妃が亡き王に手向けたものと思われた。墓の中はどこも黄金で輝いていた。しかし、どの輝きよりも枯れたその花束のほうが数段美しいと思えた」 |