Episode No.074:体が資本
奇術師だった父親の芸名は、"松旭斎天秀(しょうきょくさいてんしゅう)"。
ある日、天秀は銀座の高級靴店に息子を連れて行った。
彼は何のためらいもなく、一番高そうな靴が並んでいる棚の前に立つと、こう言った。
「ウン、さすがにいい靴を置いている。うちの坊主は"足"が商売だから、こういういい靴を履かなきゃいけない」
坊主とは言っても、年は22、3。しかも息子は、かなりの長身だ。
父親が選んでくれた靴の値札を見て、目玉が飛び出しそうになった息子は
「もう少し安いやつでいいよ」
と囁いたが、父親はきっぱりとした口調で
「商売もんは大切にするもんだ。これでいい!!」
と、半ば強引に高級な靴を履かせて笑った。
高校時代から父親の鞄持ちをしていた息子に、父親が望んだ仕事は"体をはる"商売。
芸人として生きた経験から、人様からお金をもらうためには"体をはる"のが当然・・・という哲学を持っていたのだろう。
そして、息子も体をはって生きる道を選んだ。
24年間にわたって、一言も話さず、ひたすら大きな手を、長い足を振り回して見せた。
息子の名前は高見 映。ニックネームは"ノッポさん" |