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Episode No.067:あげまんの方程式

故、伊丹十三脚本・監督の大ヒット映画に『あげまん』というのがある。

ごらんになった方も多いだろうが、いっしょにいる男の値打ちをどんどん上げていく、幸運の女神のような女の話だ。

伊丹十三自身、妻で女優の宮本信子は"あげまん"だったに違いないが、最期は釈然としない死に方をしたのが、何とも残念だ。

実は世の中に"あげまん"は、たくさん存在している。

現、竹中直人夫人の木之内みどりも、そのひとりだと思う。

"素人コメディアン道場"で、ブルース・リーや松田優作のモノマネをしていた男がプロのお笑い芸人になるまでは予測がついても、NHK大河ドラマの主人公に抜擢され、あげく映画監督になるとは誰も予想しなかっただろう。

もちろん、本人の才能と努力なくしては成しえないことではあるが、その才能を理解し、輝かしい未来まで信じてくれる人が身近にいなければ、努力もなかなか続くものではない。

そういう意味では"あげまん"は、決して女性に限らず、時には男性であったり、属している組織や企業であったりもする。

この不況にもビクともせず、世界に伸びるホンダやSONYに見られる"個を大切にする精神"は、それに近いものだろう。

生前、本田宗一郎が「会社のために働くな、自分のために働け。そうすれば会社もよくなる」と言ったのは有名な話。

この言葉を家庭に置き換えれば「家庭のために働くな、自分のために働け。そうしなければ家庭も良くならない」ということだ。

家庭のために自分を押さえて生きているという男に限って、それは努力できない自分に対する言い訳だったりする。

詩人、西条八十の妻、春子も"あげまん"のひとり。

貧乏詩人で盲目の母と同居していた八十の元に嫁いだ春子は、見た目はのんびりした性格だったようだが、夫の才能を信じて、最期まで八十を力強く支えた。

結果として八十は『東京音頭』や『青い山脈』というヒット曲の詞を手がけるかたわら、投資家としても莫大な財産を築くことができた。

貧乏時代にフランス留学のチャンスを得た八十は、自分が留学している間の留守宅の生活を心配したが、春子はこう言って八十を送り出したという。

「人間、やってみてやれないことはありません」


参考文献:「日本史人物・女たちの物語」加来耕三、馬場千枝=著 講談社+α文庫=刊 ほか

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