Episode No.061:蘇る金星
怒れる男が逝ってから、もう9年が経つ。
1989年11月6日午後6時45分、彼は永遠の眠りについた。
松田優作、享年40歳。
「過ぎたことは忘れようじゃないか」・・・それが、彼の口癖だった。
一方で、遺作となったアメリカ映画"ブラックレイン"の撮影現場では、撮影の合間、監督のリドリー・スコットや主演のマイケル・ダグラスをはじめとする仕事仲間が、いつまでも自分のことを覚えていてくれるかどうか、いつも不安にさいなまれていたという。
彼が癌を宣告されたのは、この"ブラックレイン"の撮影に入る直前のことだった。
彼は治療より、映画を取った。念願のハリウッド映画を。
彼が逝ってから1年3ヶ月後のある日。
凍てつく寒さの中、皮のジャンパーに身を包んだ男が松田優作の未亡人、美由紀を訪ねた。
男は懐中から小さな包みを取り出すと、そっと渡して言った。
「これからは優作の時代だ。そう思い、その日のために用意していたものです」
包みの中にはロレックスの腕時計。・・・その裏側には小さく、こう刻まれていた。
From Ken Takakura
エネルギーの塊のような男が逝ってから、もう9年が経つ。
彼の放ったエネルギーは、今もスクリーンの向こうから私たちにシッカリと届いている。
さて、あなたのエネルギーは何に焼き付けますか? |