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Episode No.044

連日、ニュースやワイドショーを騒がせている、和歌山保険金事件。

松本サリン事件の影響もあってか、本件のカレー事件については、かなり遠回しな言い方をしているものの、やはり疑惑の夫婦は限りなくクロに近い印象を受けてしまう。

このニュースで、疑惑の主婦の生活ぶりを聞くたびに思い出す1本の映画がある。

それは、チャップリンの「殺人狂時代」。

鼻の下のチョビ髭だけは残したものの、お馴染みの放浪者スタイルを捨てて、喜劇の王様チャップリンが挑んだ、ある意味で非常にシリアスなドラマだ。

主人公は一見ダンディな紳士。仕事は殺人。と、言っても殺し屋というわけではなく、サギに近い。
つまり有閑マダムを次々にたらしこんでは財産を奪ったあげく殺してしまう。
そのだまし方、殺し方にチャップリンならではの喜劇的な演出がなされていて実におもしろいのだが、実際に殺してしまうシーンは、さすがに暗い。

ラスト・シーン。
警察につかまって留置場にいる主人公は、死刑執行の日を迎える。
牧師の祈りを振りはらい、彼は言う。

「私にとって殺人はビジネスでした。
 ひとり殺せば殺人者。百万殺せば英雄。その数が殺人を正当化するのです」

そして、死刑台に向かう主人公の後姿で映画は終わる。

実は、この映画の製作には、こんなエピソードがある。

とあるパーティで数多くの映画人が集まった。
チャップリンもそこにいたわけだが、同じ席にある有名俳優が来て話をした。

その時の雑談を元に話を組み立てて、チャップリンはこの映画を製作した。

チャップリンが、この話を映画化していることを知った、その有名俳優は、
「あの時の俺の話が元になってるんだから、原作として俺の名をクレジットしろ」と、チャップリンに要求。チャップリンはしぶしぶ、その要求を認めた。

当然、今でも「殺人狂時代」には原作として、その有名俳優の名がクレジットされている。

原作 オーソン・ウェルズ


参考文献:「チャップリン自伝」チャールズ・チャップリン=著 中野好夫=訳 新潮社=刊 ほか

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