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Episode No.042

彼が会社を辞めたのは、23歳の頃。

当時、すでに所帯をもっていた彼は、とてもブラブラしていられる身分ではなかったが、会社を辞めたのには2つの大きな理由がある。

彼は人と比べて、身体があまり丈夫ではなかった。
彼が会社勤めをしていた頃の給料は日給制で、休めば当然、給料が減ってしまう。まして、現在のように失業保険などというものは存在していない。

会社を辞めて夫婦でぜんざい屋でもやれば、自分が休まなければならなくなっても、女房が店を開けてくれるので、とりあえず商売は成り立つはずだ。
これが、ひとつ目の理由。

ふたつ目の理由は、勤めていた会社で彼が考案した商品が採用してもらえなかったこと。
「これは絶対にイケる」と信じて、一生懸命に作ったものだっただけに、不採用のショックは大きかったし、どうしてもこの商品を捨てきることはできなかった。

そして、彼は独立した。

夫婦2人で始めた商売は、まだ会社などという組織にはほど遠く、唯一の願いは少しでも仕事が安定してくれること。今日一日の仕事を悔いのないようにやることで精一杯だったという。

神は彼ら夫婦に味方した。

勤めていた会社では、とうとう採用されることのなかった彼が考案した"二股ソケット"は飛ぶように売れ、会社は急成長を遂げることになる。

そう、彼の名は松下幸之助。

ゲーテの残した言葉にも、こんなのがある。
「気分がどうのこうのと言って、なんになりますか。
 ぐずぐすしている人間に気分なんかわきゃしません。
 今日できないようなら明日もだめです。
 一日だって無駄に過ごしてはいけません」

経営の神様と呼ばれた松下電器の創業者は、その後は健康にも恵まれ94歳の天寿を全うした。


参考文献:「松下幸之助 発想の軌跡」PHP総合研究所=編 PHP文庫=刊
     「ゲーテ格言集」高橋健二=編訳 新潮文庫=刊

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