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Episode No.025

「おまえ、この一尺のモノサシのどこが真ん中だと思う?」

12、3歳になる息子を前に、使い込んだ竹製のモノサシをかざしながら父は尋ねた。
息子は即座に指さして答えた。

「もちろん、この五寸のところだ」

すると父親は、手にしたモノサシで息子の頭をパチンと叩いて「馬鹿野郎!」と怒鳴った。
この態度には、ケンカっ早い息子も腹を立てるころか、ただただ呆然と父の顔を見た。

やがて、父はゆっくりと語り始める。

「一尺のモノサシでも五寸が真ん中じゃないんだ。こっちの端から四寸、こっちの端から四寸。中の二寸、この残ったところが真ん中なんだ」

後年、世界に名だたる企業のリーダーとなった、その息子は、この話をこう説明した。

「つまり、両方がぶつかった時に真ん中を残しておけば、そこが話し合いの場になると言うんですね。それを残さずに私の場合は五寸どころか、その先まで行っちゃうからイカンって、すごく怒られましたよ。ほかにも、いろんなことを教わった。今でもしっかり覚えてますよ。うちの親父も、どうしてなかなか学者だったね。ハハハ」

昭和の天才独創家と言われた本田宗一郎。その父もまた人生哲学の達人だった。


参考文献:「人生の達人・本田宗一郎」坂崎善之=著 講談社文庫=刊

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