Presented by digitake.com

 

Episode No.215(990505):スープに魅せられた男

東京・原宿の神宮前交差点にあった洋食屋「ウィンボンボン」のマスターが、忙しい仕込みの合間をぬって書き綴った「スープの本」がある。

私が店を訪ねた時に書いていたのは2冊目となる本で、最初に出した本をその場で売ってもらった。

潮文社から出されていた新書版のその本のタイトルは、ズバリ「スープの本」。
著書を手にして初めて、このマスターの名前が山口栄一ということを知った。
裏表紙にはキリッとしたコック姿のマスターの写真。
いつもはランニング姿しか見たことはなかったが、大使館勤めの頃は毎日、この写真のような姿をしていたのだろう。

「スープの本」には、マスター直伝のさまざまなスープの作り方が載っていることはもちろんだが、スープを飲む時のエチケットから、歴史や格言、スープを描いた絵画の話、さらにスプーンやスープの器についての話まで、スープに関するありとあらゆるウンチクが詰まっていて、読み物としても充分に興味深い。

ご飯とみそ汁が切り離せないように「スープを欠いた食事は、食事とは言えず、それはただの食物に過ぎない」と言い切るマスターのスープに対する愛情に満ちた一冊だ。

日本人がスキーで足の骨を折る確率が高いのは、スープを飲まないから。
骨と言えばカルシウムと言われるが、本当に大切なのはニカワ。
ニカワ汁であるスープを飲むことによって日本人の骨折は少なくなる・・・という説の紹介。

また、日本で初めて発売されたスープの広告は、みそ汁有害説を唱える痛烈な比較広告だったことなどもこと細かに解説されている。

あとがきによるとマスターは、ドイツ大使館に勤めていた時からスープにのめり込んだらしい。
戦後まもない頃の話だ。
いざ、スープについて調べようと思うと、まともにスープのことを扱った本は、当時何もなかった。
仕方なく洋書をひもときながら研究を進めたという。
その25年間の集大成として本を出した・・・というわけだ。

今はなき(?)「ウィンボンボン」もスタート時にはスープ専門店だったが、それだけでは商売にならずに洋食屋となったらしい。

マスターから直接買った「スープの本」が発刊されたのは、今からちょうど21年前の5月5日。
マスターは、本の後ろに、こんなサインをしてくれた。

「将来、あったかい御家庭とおいしいスープを作って、すてきなスイートホームを築いて下さい。本をお買い下さって有り難うございます。山口栄一拝」

この時、本を買ったのは、うちのカミさん。
無論、結婚前の話である。

お陰様で、おいしいスープ・・・時々、飲ませてもらってます。


参考資料:「スープの本」山口栄一=著 潮文社=刊

[ Back to TopBacknumberご愛読者アンケートBBS 御意見番BBS 保存版 ]