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外科医ウイリアム・ステュアート・ハルステッドは悩んでいた。

手術の腕には自信があった・・・かどうかは定かではないが、彼の悩みはもっと素朴なもの。

そう、恋をしていたのだ。

お相手は看護婦のハンプトン。
愛する女性を助手に従えて行う外科手術は、きっと心強いものだったろうし、少しくらいは「いいところを見せてやろう」と思ったかもしれない。

しかし、ステュアート医師にとって耐えきれないことがひとつあった。
それは手術助手を務める彼女の手が血のりで汚れてしまうことだ。

19世紀末まで、外科室は現代では考えられないほど不潔きわまりないものだったという。

1864年になってフランスの細菌学者パスツールが、ワインが酸っぱく腐敗する原因を空中の微生物が原因・・・と、つきとめるまで、医師たちは細菌の危険性にはまったく気づいてはいなかった。

1890年。ステュアート医師は愛するハンプトンのために、ひとつの道具を考案した。
彼が考え出したゴム製の手袋は、手にピッタリと馴染んで作業の弊害にもならない。もちろん、ハンプソンの美しい手もむやみに汚れずに済む。

手術用ゴム手袋は感染予防の必需品として瞬く間に広がったが、開発の裏には、こんな愛の物語があった。
もちろん、その後、ステュアートとハンプトンが結ばれたことは言うまでもない。

ひょっとすると、空中の微生物の存在を確認したパスツールもワインに恋していたのかもしれない。


参考文献:「教科書に載らない雑学系230の疑問」テリー伊藤=監修 成美堂出版=刊

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