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黒澤映画やゴジラで知られる『東宝』という会社がある。

『東宝』の前身は『東宝映画』という。事業の多角化にともなって映画という言葉は社名から取られたのだろう。
では、そもそも『東宝』とは、いったい何を意味しているのかご存じだろうか?

お察しのとおり『東宝』は略称だった。
名称のもとになったのは『東京宝塚劇場』で、創立したのは宝塚歌劇団の父でもあり、阪急電鉄を起こしたことでも知られる小林一三だ。

今から30年ほど前、まだ小林一三が東宝の相談役をしていた頃の話。

無類のアイデアマンとして知られ、終戦直後には内閣から国務大臣に任命され、戦災復興院総裁まで勤めた小林は、当時、東宝映画の強化のため、映画担当役員を社外から抜擢することを検討していた。

そして、ひとりの男が呼ばれた。
彼は、元東宝の宣伝部に在籍していたこともあり、映画に対する見聞は誰よりも広い。

しかし、小林からの直の頼みであるにもかかわらず、男はこの話を辞退した。

「もし東宝の人間になってしまったら、今までのように各社の映画を沢山観ることができなっくなっちゃうもの・・・」

地位や肩書きよりも本当に自分が愛するものを選んだ男、淀川長治。
御年89歳。現役の映画人である。


参考文献:「小説 小林一三」咲村 観=著 読売新聞社=刊
     「ATG編集後記」多賀祥介=著 平凡社=刊

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