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Episode No.151(990219):不死身の男

手術には、まる24時間を要した。

彼の左足は骨がメチャクチャに折れていたうえ、その破片が筋肉に突き刺さっているという最悪の状態。
左右の腱も切れ、普通なら、もう二度と立つことができなくなっても不思議はない。

腰にドリルで穴をあけ、太股にかけて髄の中心には鉄の芯を入れる。
その芯を支えるために、砕けた骨の破片を集めて骨の周囲に貼り合わせてゆく。
筋肉に食い込んだ骨をひとつひとつ抜いていく作業には、とくに時間がかかった。
ようやく骨の破片が集められたところで、それらがバラバラにならないよう針金で巻く。
それは、まるで一度砕け散った足の破片をつなぎあわせて、新たに足を作っていくような作業だった。

しかし、武道で鍛えた25歳の彼の肉体は、この過酷な手術に耐えた。

左下半身をギプスで固定された彼は、テレビのスイッチを入れた。

1971年4月3日土曜日、午後7時30分。
インパクトのあるファンファーレとともに、新番組が始まった。

"仮面ライダー"。

主人公の本郷 猛を演じているのは、痛む体をベッドのうえで強引にひねって、ブラウン管を食い入るように見る彼、藤岡 弘である。

事故は"仮面ライダー"の放映が始まる直前に起きた。

第10話分のラストシーンを撮影中のことである。
颯爽と走る本郷 猛のバイクは、カーブを曲がり切れずに、電柱を支える電線に接触。そして転倒。
あわてて駆け寄ったスタッフは、彼の左足が通常ではあり得ない方向を向いていたのに驚いたという。

この事故の話は、放映当時、マスコミには一切流されなかった。
こういう理由があって"仮面ライダー"は第10話くらいになると、突然2号が登場してくる。
外国に行ったことになっていた本郷のシーンは、上半身だけを病室で撮影した。

奇しくも改造人間という役柄を演じ始めたとたん、本当に改造人間さながらの大手術を受けた藤岡は、後にこう語る。

「あの事故で、ずい分といろんなことを考えさせられました。初主演ドラマの仮面ライダーは、この先、いったいどうなるんだろう。いや、自分の役者生命はこれで終わりになるんじゃないだろうか・・・とも。しかし、今思えば、あの事故のおかげで、番組がヒットしても決してテングにならず今までやってこれたのだと思います」

"せがた三四郎"も、今日2月19日で53回目の誕生日を迎える。


参考資料:「仮面ライダー 本郷 猛の真実」藤岡 弘=著 ぶんか社=刊

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