発明王、トーマス・エジソンは、かつて自分の工場で働いていた彼をさして、こう言った。
「奴は、このアメリカに車輪をつけたんだ」
発明品そのものについてはもとより、ベルトコンベアによる大量生産方式を考案し、発明をビッグビジネスに発展させたことに対して、エジソンは彼を高く評価していた。
彼の名は、ヘンリー・フォード。
一代で巨万の富を築いた自動車王が生まれたのは、今から136年前の今日、1863年2月1日のことだ。
師匠、エジソンにも負けないほどの完璧主義者だった彼は、見方によれば、かたよった独裁的な経営者という一面もあった。
往々にして自ら企業を興したオーナー社長は、こういった傾向に陥りやすいが、中小企業ならいざ知らず、フォードほどの大企業となると弊害も決して小さくはない。
タバコを嫌ったフォードは、全従業員にも喫煙を禁じ、会社内どころか家庭でタバコを吸うことさえ許さなかった。興信所を雇って、従業員が自宅で喫煙していないかどうかを調べさるという徹底ぶりだ。
アメリカ人でありながらヒトラーに傾倒し、裏ではナチス・ドイツに献金をしていたという話も残っている。
ともあれアメリカは、彼のお陰でずい分と豊かになったが、この独裁的なフォード王国の中で一番の犠牲となったのは、息子のフォードJr.だろう。
父親の後を継ぐべくして会社に入っていたフォードJr.は、父親と従業員との狭間に立たされたために精神的にも疲労が重なり、早死にすることになってしまった。
さすがのフォードも、このことには大変なショックを受け、以来、経営の一線から徐々に引いていくことになる。
企業の体質がようやく落ち着いてきたのは、孫の代に入ってからのことだという。
世界の自動車業界が再編を進める中。今年、創業96年目に入るフォードが、スウェーデンのボルボの乗用車部門を日本円にして約7,500億円で買収したというニュースが流れたのは先週金曜日のこと。
そういえばMAZDAも今じゃ、フォードの傘下だし。
ヘンリー・フォードが回しはじめたアメリカの車輪は、まだまだ回り続けているようだ。