Episode No.118(990112):「うさぎとカメ」の真実
イソップ童話の中でも有名な『うさぎとカメ』の話。
誰でも知っているこの話から、あなたはまず何を感じとっただろうか?
この話には見方によっていくつかの教訓がある。
ひとつ目は最もポピュラーな教訓で「弱者でも一生懸命努力すれば成功者になれる」ということ。
地味でも着実に一歩一歩先へ進んでいれば、必ず認められるという希望に満ちた話としてのとらえ方だ。
ふたつ目は「優れた者、成功者に対するいましめ」。
いかに足の速いうさぎでも油断すれば、カメに負けることがある。決して自信過剰になるなという教訓に満ちた話。
今ひとつは、ちょっとひねくれた考え方で「弱者が勝つためにはインチキが必要」という見方。
本当にカメが正直者なら、寝込んでいるうさぎを起こして再スタートをきったはず。それを横目で見ながら、ソロリソロリと通り越してゴールを目指すカメの頭には自分が勝つことしかない。
ところで、この話を書いたイソップは、紀元前6世紀頃に活躍した古代ギリシャの作家。
もともと奴隷の身であったが、話上手だったために奴隷から解放されて、晴れて平民となったと言われている。
その奴隷格上げのきっかけとなったのが、この『うさぎとカメ』の話。
現実的に考えれば、かけっこをしてカメがうさぎに勝てるはずはない。まず、競争をすること自体無理だ。
童話なんだから、夢があった方がいい・・・と言ってしまえばそれまでだが、当時、ギリシャを支配していた側からみれば、奴隷が「努力していれば、必ず実を結ぶことがある」と信じて、自分の仕事に従事してくれれば、それに越したことはない。
こういった支配者側の観点から、この話は高く評価され、イソップは奴隷から格上げされたが、普通の奴隷はいくら頑張ったところで生涯、奴隷のまま終わる。
ちなみに『イソップ童話』は、16世紀末には『伊曾保物語(いそほものがたり)』という題名で日本でも翻訳されている。 |