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Episode No.106:仕事が人を救う

師走に入ると事故が増える。

つい昨日もウチの近所で自動車事故があった。あわただしさから、つい注意を怠りがちになるが、それを肝に命じて行動しないと、余分な仕事を増やすことになる。

こういう余計な仕事は、いくら一生懸命やったところで何も生み出さないので、むなしいものだが、食うための仕事はなければ困る。

事故と同時に増えるのが窃盗。
「このままでは年が越せない」と思いあまる人も出てくるようだ。

江戸時代も落ち着いている頃の盗賊は、盗みをビジネスと考えて、金と時間をかけて準備をし、納得のいかない仕事はしない。殺傷はしない。貧しい者には手をださない・・・といったルールをもってコトに望み、日頃は盗賊以外の正業に就いて、健全な市民としての生活も営んでいたようだ。

ところが、正業がうまくいかず、本当に食うに困るようになってくると、そんなルールは守ってはいられない。
頭を使って大きなヤマを狙うより、力の弱い者から巻き上げた方が手っとり早いと考える者も後を絶たなくなってくる。
そういう輩が増えてくると、もう町奉行だけでは手に終えなくなる。

そこで、当時の"特別機動捜査隊"の隊長は考えた。
「いつ強盗に早変わりするかもしれない無宿者たちを集めて労働の場を与えるのが先決」

彼の提案によって石川島に人足寄場がつくられ、罪のある者、ない者を問わず大勢の無宿者が集められた。
1万6,000坪もあったという、その敷地には寄宿舎と工場が設置され、腕に覚えのあるものには大工仕事、ない者には米つきや油しぼりの仕事が与えられた。

ここで注目されたのは、水車仕掛けによる大規模な油しぼりで、石川島での試みは、盗賊を減らす一方、工場制手工業の先駆けともなった。

自ら、その人足寄場の初代管理者となった"特別機動捜査隊"の隊長の名は、長谷川平蔵宣以(のぶため)。
人は彼を"鬼平"と呼んだ。


参考資料:「歴史おもしろ苦労話」泉秀樹=著 三笠書房=刊

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