Episode No.3143(20080923)
生き続ける思い出

うちの父親は次男で・・・
静岡から東京に出てきた。

姉、兄、もう一人姉がいたが・・・
戦時中に5歳で亡くなっている。

で、父が次男で、
その下に末っ子の弟がいる。

末っ子とは言っても、
もうとっくに勇退してる年だけど、ね。

嫁いだ姉は別として・・・
家を出た男、という意味において、
父と弟は、わりと仲がいい。

別に兄と不仲だったわけではないが・・・
家を継いだ兄と弟の間には、
お互いに理解しがたい苦労もあったろうし
・・・まず、第一に
酒飲みの次男と違って、
長男は一見豪快そうに見えて下戸だった。

酒飲みにとって、
酒の呑めない相手ほど、
相手にしづらいものはない。

しかし、その次男・・・つまり私の親父は、
ここ数週間、兄の元へ通っていた。

80を越えた兄は病院のベッドの上。
すでに言葉も出ないほどの体力だ。

それでも弟の顔を見ると・・・
何を思い出したのか、
何度も笑顔を見せたという。

弟もつられて笑った。

何の対話すらないが、
2人には共通の思い出がある。

それは・・・
神社の鳩をつかまえようとして、
勢い余って尾をちぎってしまい・・・
メンソレータムを塗って介抱するも、
いざ伝書鳩にしようと思ったら・・・
パタパタっと2人の頭の上をすり抜けて、
二度と戻らなかった・・・ことなのか。

そして、あの時の鳩のように・・・
兄もこの世を飛び立った。

私から見れば叔父さんだ。
実に筆まめな、いい叔父さんだった。

5月の叔父さんの誕生日には電話して、
結構いろんな話をしたのに
・・・それが叔父さんの最期の声だった。

みんな・・・
最期は思い出になってしまうんだなぁ。

思い出に残る人物になれることは
・・・最後の幸せでもある、ね。