THE THEATER OF DIGITAKE


第16話 古き良き時代

■宮田浩一郎の求婚

宮田浩一郎と妻の裕美子は恋愛結婚だ。

妻は宮田と同じ大学の後輩。最もかなり歳の離れた後輩だったから、同じ時期にキャンパスに通ったことはない。
宮田が寮生活を送っていた頃、その大学はまだ単科で女子学生の姿はほとんどなかった。妻の時代になると学部も増えて、キャンバスに黄色い声がこだますることも珍しくはなくなっていた。

宮田と妻が出会ったのは、まだ妻が在校中の学園祭でのことだ。
宮田が属していたゼミで、国際問題についてのディスカッションがあって、一応商社マンである宮田はOBとして呼ばれた。どんな内容のディスカッションをしたのかは、さっぱり覚えていないが、その時の世話役のひとりが妻となる裕美子だった。

会社ではまだ元気だけが取り柄で、まともに仕事はできなかった宮田も後輩たちの前ではリッパな社会人。学園祭の後、なけなしのサイフをはたいて、後輩たちと居酒屋に繰り出した。

時代はちょうど長かった佐藤内閣が終わって、田中内閣が発足した頃。小学校しか出ていない庶民派宰相に日本中の誰しもが期待を寄せていた。もちろん、宮田や宮田の後輩たちも例外ではない。ことに新潟出身の裕美子は新しい時代の到来について熱っぽく語っていた。

それまで女性と接する機会の少なかった宮田にとって、自分の理想を賢明に話す裕美子は新鮮に映った。宮田が知ってる女性の集団は、例えばみんなで喫茶店に入れば注文の品がなかなか決まらず、ようやく誰かが決めると「私も」「私も」と口をそろえる存在でしかなかった。
しかし、裕美子は違う。自分の考えをシッカリと持っている。北海道出身の自分と同じく、雪と戦ったことがあるヤツはやっぱり違う・・・宮田はそう確信した。

やがて裕美子が就職する時期になり、宮田は格好の相談役となった。裕美子が3年ほどOLを経験した頃、会社の同僚からプロポーズされ、その相談にも乗ることになった。

「宮田さんは結婚ならさないんですか?」

「するよ、いつかはね。いい相手がいれば」

「じゃあ私はいい相手じゃないんだ・・・」

「いや、いい相手だと思うよ」

「じゃあ、どうします?」

「結婚・・・するか」

思えば宮田から裕美子へハッキリとしたプロポーズはしていなかった。しかし結果が良かったから、そのままでいいとも思った。

今、また自分に大きな問題を相談している女性がいる。・・・三村しよりはいい娘だ。
上司として、そして男として・・・。さて、どうしたものか? 2000年にもなったことだし・・・。


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