THE THEATER OF DIGITAKE


第13話それぞれのクリスマス<後編>

■微熱中年

忘年会翌日の天皇誕生日。

宮田は朝から携帯電話を片手にウチの中をうろうろしていた。
ひょっとして三村から携帯に電話があるかもしれない・・・家の中でも最も電波状態のいい位置を探していたのだ。

「あの・・・課長。もし、よかったら明後日のクリスマス・イヴの夜・・・」

夕べ自分にそう語りかけてきた三村の言葉は、学生のように陽気なヨッパライ柳によって寸断され、その先の明確な内容までは聞き取ることができなかった。

その先・・・。宮田には想像はついていた。
中途半端な状態になっている三村の話を聞く約束はしている。しかも、受験生を抱える宮田の自宅で特別にクリスマスらしいことはしないことを話した直後に出てきた言葉だ。きっと、また2人で逢いたい・・・どうせならクリスマス・イヴの晩に・・・ということに違いない。

宮田の胸は少年のように高鳴っていた。

ただ、ひとつ問題があった。女房と別居中の旧友、木下に代わって、5つになる娘にクリスマス・プレゼントを届けなければいけない。しかも千葉まで。

そういうわけでイヴの夜は予定が入ってしまったが、クリスマス当日も休日の土曜日だ。いや、むしろ金曜日より土曜日の方が、まだ店は空いているかもしれない。
最も、あの三村の部屋に招待してくれるのであれば、店の心配なんかないんだけれど・・・。

とにかく、スケジュールの調整は急ぎたい。
こっちから三村に電話をかけてみようとも思ったが・・・。
タバコを吸わない宮田は「ちょっとタバコ買ってくる」と言って簡単に家を出ることもできない。無論、大の大人・・・まして家長が家を出るのに散歩でも何でも理由をつけてオモテに出ることはできなくはなかったが、実は部下の若い女性に電話をするためという、妻に対して"やましい"気持ちがあると、どうしても行動しづらい感じがする。

その点でも中年男、宮田の心境は少年に近かった。


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