THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行11 11/14


■酔いどれ歯医者

良樹が座った診療椅子をクミがクグッと後ろに倒した。

まさかクミの父親に診察してもらうことになろうとは・・・。
しかし、痛みはすでに耐えきれないところまで来ている。
この際、もう誰でもいい。一刻も早く、この痛みから解放してほしい。

頭上にぶら下がるライトを見つめながら良樹は、そう思った。

ライトのわきからクミが顔を出した。心配そうな顔つきだ。
ありがたかったが・・・何ともカッコ悪い。

後の方でパタパタとスリッパを引きずる音がした。・・・来た! クミの父親に違いない。

父親に駆け寄ったクミは言った。

「おとうさん。すごく痛そうなの。何とかしてあげて」

「大丈夫だ・・・死にゃあせんよ。お前はいいから部屋に上がってなさい」

「・・・でもぉ」

「アイツだって、ガールフレンドにこれ以上カッコ悪いところ見られたくないだろう」

クミと父親の会話を聞くともなしに聞いていた良樹は、クミが奥の部屋に歩いていく足音すると少し心細くなった。

やがて目の前にヌッと父親の顔が現れた。
鼻の頭が少し赤い。一応、白衣は着ているものの前のボタンは、ひとつもはまっていない。

父親はひたすら眉間にシワを寄せたまま言った。

「お前、中3だって? まだ義務教育も終わってないのか」

吐く息は何とも酒臭い。
父親は顔をひっこめるとライトをつけた。

「ほら、口開けて!」

良樹は言われた通り、口を力いっぱい開いて・・・目を閉じた。
父親と目を合わすのが何とも怖かった。

「ははぁ・・・こいつだろ?!」

とがった器具で虫歯をつつかれると全身に激痛が走った。
良樹は必死でうなづいた。

「どうして、こんなんなるまで放っておいたかなぁ・・・こりゃあ痛いはずだ」

奥から母親の声がした。

「おとうさん、レントゲン撮りますか?」

「いや、いい。こりゃあ一目瞭然だ。麻酔打ってイッキにやっちまおう。・・・それに、ちっちゃいレントゲンなんか今見ても、よくわからん」

「はいはい、じゃ、麻酔ね」

良樹の額にうっすらと脂汗がにじみ出してくる。それは決して痛みから来るものではなかったように思う。


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