THE THEATER OF DIGITAKE |
■夢みる気分 薄暗いアパートのエントランスの中で三村しよりの肩が小刻みに揺れる。 スーパーの買い物袋を手にした宮田浩一郎。その目前、わずか20cmの位置に彼女はいる。 三村が着ているクリーム色のカーデガン・・・その編み目の隙間から色の濃いシャツまでハッキリと確認できる。 カチャカチャっという音がして・・・禁断の扉は静かに開かれた。 玄関に一歩踏み入れた三村は暗闇の中、慣れた手つきで明かりをつける。 パッと広がる視界の中に、整頓された、ひと目で女性の部屋だとわかる世界がそこにはあった。 「すいません。重たかったでしょ?」 「あ、いや大丈夫。それにしてもたくさん買ったね」 「平日はお買い物に行けないし・・・鍋をしようと思ってアレやコレや買ったら、何だか買いすぎちゃったみたいで・・・。どうせ、ひとりじゃ食べきれないのにね」 そう言いながら三村は、スリッパを差し出しす。 「でも今夜は課長といっしょだから・・・。狭いところだけど、どうぞ上がって!」 スリッパに足を入れると、ひんやりと冷たい感覚が伝わってきた。 しかも、ちょっとだけ窮屈な感じ・・・。女性用というわけではなく、どうやら新品のスリッパらしい。 少なくとも男性を家に入れたことはないという三村の言葉に嘘はないようだ。 せっかくスリッパを履いたものの、台所の脇を2〜3歩も進むと、もう畳の部屋だ。 「6畳、4畳半しかないのに家賃が6万5,000円もするんですよ」 「交通の便がいいわりには安いんじゃない・・・かな」 部屋の中央に置かれたコタツに向かって腰を下ろした宮田は、部屋の中を見渡した。 可愛らしい小さなぬいぐるみがいつくか棚の上に並べられてはいるものの、若い女性の部屋としては飾り気が少ないように思える。 最も若い女性の部屋なんて、入るのはこれが初めてだが・・・。 6畳、4畳半・・・ということは、ここが6畳だから、あのフスマを開けたところが4畳半。 4畳半は・・・きっと寝室に違いない。 ベッドがあるのか、それとも布団なのか・・・ベッドだったら敷く手間はない。 ついつい、そんなことを考えていると、カセットコンロを取り出した三村が声をかけた。 「いゃだ課長、あんまり見回さないでくださいよ。恥ずかしいから・・・」 「す、すまん」 台所に立ってスーパーの袋から取り出した材料を刻みはじめる三村を見ながら、宮田はそっと自分のフトモモのあたりをつねってみた。 痛い! ・・・夢じゃないんだ、コレは!! |
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