2002/10/6

でじたけ流 映画論


『千と千尋の神隠し』
2001年日本映画/スタジオジブリ作品
製作総指揮:徳間康快
原作・脚本・監督:宮崎 駿
プロデューサー:鈴木敏夫
DVD発売元:ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント

『モンスターズ・インク』
2001年アメリカ映画/ディズニー+ピクサー作品
製作:ダーラ・アンダーソン
製作総指揮:ジョン・ラセター/アンドリュー・スタントン
原案:ピート・ドクター/ジル・カルトン/ラルフ・エッグルストン
脚本:アンドリュー・スタントン/ダニエル・ガーソン
監督:ピート・ドクター
共同監督:ジョン・ラセター/アンドリュー・スタントン
DVD発売元:ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント




ハイ! 皆さん、ちょっとご無沙汰しました。でじ川でございます。

和室ホームシアターやっと、やっと、あの話題作。観ることができました。
でも、映画館でじゃないのね。ちょっと寂しいなぁ。
映画館のあの何とも言えない雰囲気、そして緊張感。好きなんですけどねぇ。最近ちっとも行ってない。
一番下の子が間もなく3歳。あー3歳。きかん坊ですね。席にジッとしていられませんね。
そんなわけで、今度うちを増築した時には寝室にしてる和室をホームシアターにしてしまいました。
今はDVD5.1ch使うと映画館並みの迫力が出ますねぇ。画面はプロジェクター式で100インチ。ちょっとお金がかかりましたねぇ。それでも家族全員で映画館に行くことを考えたら安上がりかもしれません。
それにね、「映画観たかったら早く寝る支度しろ」と言うと、子供たちがサッサと言うことを聞くんですねぇ。

さて、今回ご紹介する映画は和室のホームシアターで観るにはピッタリの映画『千と千尋の神隠し』と、『トイ・ストーリー』でお馴染みのピクサー・アニメーション・スタジオ社最新作『モンスターズ・インク』。どちらも、バケモノの世界に人間の子供が迷い込んだお話です。


■『千と千尋〜』は一日にして成らず

宮崎駿脚本・監督作品『千と千尋の神隠し』。これは、もうごらんになった方が大勢いらっしゃるでしょうから内容について詳しい説明はいりませんね。

前作『もののけ姫』(1997)も大ヒットして「もう疲れたから引退する」と言っていた宮崎監督ですが、それをはるかに上回る興行成績を『千と千尋〜』でたたき出しました。すごいなぁ。日本映画もまだまだ捨てたもんではないなぁ。
「でもアニメでしょ」という言葉を第52回ベルリン国際映画祭コンペティション部門の最高賞である金熊賞を獲得することで跳ね返します。なんせカンヌ、ベネチアと合わせた世界3大映画祭のコンペ部門で、アニメとして初めて最高賞を獲得するというディズニーもびっくりの快挙。偉いもんやなぁ。

出だしが主人公の引っ越しシーンからはじまるあたりは、ちょっと『となりのトトロ』(1988)に似てますねぇ。それから主人公がバケモノ、いや神さまに出逢うところなんかも。神さまたちが決して神々しい姿ではなくバケモノに見えるところが真骨頂ですね。
今でこそ国民的なアイドルとなって、スタジオジブリのマークにも使われている『トトロ』ですが、製作公開時にはかなりの苦労があったという話を聞いたことがあります。
ジブリ作品は徳間書店がスポンサーになっていますが、『トトロ』の時にはまだ今ほど一般的な評価は受けてなかった。もちろん『風の国のナウシカ』(1984)とか『天空の城ラピュタ』(1986)はもう作られていましたが、徳間から見れば「一部のマニア向け」のような印象もまだあったのね。で、なかなか企画が通らないんでジブリのもう一人の雄、高畑勲監督の『火垂るの墓(原作:野坂昭奴)』(1988)と2本立ての企画にして何とか製作公開にごきつけた。だから、1本あたりの製作費は決して充分ではなかったでしょう。
ところが『千と千尋〜』では『もののけ姫』の大ヒットもあってスポンサーサイドの期待も充分、製作費もある程度「言い値」でいけたでしょうから、ひょっとすると『トトロ』の時には宮崎監督自身がやり足りなかったものが出せたのかもしれません。

こういう事情はどんな製作の現場にもありますね。
例えば円谷プロダクションのTVシリーズで言えば、『ウルトラマン』の時には予算がまだなくて、前作『ウルトラQ』で使った怪獣をそのまま流用したり、セミ人間をバルタン星人に改造したり、科学特捜隊本部のセットが壁2枚分しかなかったり・・・と、かなり予算上の工夫を要求されていましたが、『ウルトラマン』の大ヒットのおかげで『ウルトラセブン』ではミニチュアひとつとっても凝りまくってますね。
『トトロ』と『千と千尋〜』は確かに違う映画だけど、そういう意味で『ウルトラマン』と『ウルトラセブン』の関係にも思えるのね。もちろん両方に良さがあり、違った意味での苦労はあったと思いますけど、ひとつ言えるのは時間や予算が充分じゃないからいい作品が作れないというのは単なる負け惜しみでしょ。
それを超えた創意工夫があってはじめて心に残る作品が作れるんじゃないのかな。何億円、何十億円くれたって、素人に名画は作れないものなあ。さだまさし監督・主演の『長紅』じゃないけど、ロケ現場でボラれて数億円なくしちゃうことはあってもね。


■アイデンティティが観たい

『千と千尋〜』で主人公と一緒に、あの不思議の国に入っていった瞬間、「ああ、これは海外でもウケそうだ」と思ったのね。東洋的と言うか何と言うか・・・日本人にとっては懐かしいような、とにかく神秘的な雰囲気でしょ。

かつて大島渚監督が『戦場のメリークリスマス』をひっさげてカンヌ映画祭に乗り込んだ。グランプリをとるつもりで、胸に"ギャング"なんてプリントされたシャツを着てね。やることが派手だなぁ。
『戦場メリ』は、それまでの日本映画と違った新しいイメージが確かにあったでしょ。この作品がなかったら、その後、坂本龍一がオスカーを手にすることもなかったかもわからんし、淀川さんも大絶賛した北野武監督も同じ。
ところが、その時カンヌでグランプリをとったのは今村昌平監督の『楢山節考』。つまり『戦場メリ』は日本映画としては新しかったけどハリウッド的であり、外国の人たちが見たい日本の映画ではなかったのね。

あまりに日本的すぎるものは外国人にわからんかもしれない・・・なんてのは考え過ぎなのね。ヘンな言い方かもわからんけど、中途半端にわかるものより、まったくわからないものの方がかえって理解できたりする。それがアイデンティティというもんでしょ。

『千と千尋〜』のバケモノたちは、なぜそうなのかサッパリ説明されてない。説明されてないけどカオナシにはカオナシのアンデンティティがちゃんとあるから観ていて何も不思議にならないのね。
考えてみたら、普段私たちが会って話している人たちだって、その人の何から何までわかって話しているわけじゃないものね。

巨匠、黒澤明監督が、北野武監督を別荘に招いて対談をしたことがあって、北野作品を誉めた、と同時にこんなことを言ってた。
「最近の映画は説明が多すぎる。いきなりでいいんだ、いきなりでね」
その対談シリーズは確かNHKの企画番組だったと思うんだけど、宮崎駿監督も同じ別荘に招かれて黒澤監督にこんなことを言われてた。
「ネコがバスなんだろ?! そんなこと俺には絶対に思いつかないよ」

相手のことが全部わかってしまっていたら、そこには驚きも発見も何もないものなぁ。

最も何も説明がなかったら、ただの実験映画になってしまって、エンターテイメントとしては受け入れてもらえませんね。
映画のエンターテイメント性とは何でしょう? 話の展開は面白いに越したことはないけれど、筋を追うことばかり優先してしまうと観ていて面白さに欠ける。物語はひと言で説明できちゃうくらい単純なんだけど、アッという間に2時間観せてしまうことができたら、それが映画として面白いということになるんじゃないのかなぁ。筋を追う楽しさだけなら小説で充分だものね。


■批判されたディズニー

驚き・・・というキーワードが出たところで、話を『モンスターズ・インク』の方に移しましょ。
ここに登場するモンスターたちは子供を驚かすのが商売。モンスターたちの街では、その悲鳴がエネルギー源なのね。現代のエネルギー問題に対する強烈な皮肉が込められてますね。

『モンスターズ・インク』を観た日本人は、モンスターたちが子供部屋に忍び込むために使うドアをたいてい『ドラエもん』の「どこでもドアだ!」と思うでしょう。あなたもそう思った? 私もそう思いましたね。
『ドラエもん』の"どこでもドア"に商標があったら間違いなく勝てるね。でも、そういう「あったらいいな」と思うものは世界中の人がそう思ってるから、ベルとエジソンの電話特許論争じゃないけど結局早いか遅いかの差で、真似したかどうかはわからんなぁ。
ただ、ハリウッドの人たちは日本の漫画にかなり注目してるし、影響も受けている人がたさんたくさんいますから、記憶のどこかに『ドラエもん』の"どこでもドア"があったとしても不思議はないですね。
何せ『モンスターズ・インク』には重要な場面のひとつとして、お寿司屋さんが登場するくらいですから、日本びいきのスタッフも多かったことでしょう。
『ジャングル大帝』と『ライオン・キング』の論争もあったけど、日本人は大人しいから、ついに法廷に出ることはなかった。ディズニー社はルーカス提供の『ハワード・ザ・ダック』を「ドナルド・ダックの真似だ」と訴えたくらいなのにね。

そんなわけでピクサー作品を配給するディズニー社は、子供向けの優良なエンターテイメント作品を送り出すことでは世界で右に出る者はいないエクセレント・カンパニー。
でもね、そんなディズニー提供の作品にも批判をする人はあるのね。世の中広いからね。どんな批判か? さぁ、あれだけ善良な作品のどこが批判の対象になるのか、あなたはどう思います?

ミッキーマウスの仲間たち。ミニーやグーフィーやドナルド。友達は大勢いますね。グーフィーはミッキーのペット。犬を飼ってるネズミというのも不思議やなぁ。
友達は大勢いるのに・・・親は出てきませんね。ミッキーの両親、見たことがありません。そこが批判の対象になったのね。しかも、ミッキーには職業もない。遊んでばかり。遊んでばかりのうえ、親子の関係も描かれていないというので、かつて南米ではディズニー作品排除運動まで起こったのね。
ファンタジーに対して、そうした現実性を求めること自体、ナンセンスといえばそれまでなんだけど・・・排除運動まで起こったのは、それだけディズニー作品が子供たちに対して影響力がある証拠でしょう。

確かに考えてみると有名なディズニー作品で親子の関係が描かれているものといえば『ダンボ』くらい。でも、出てくるのは母親だけ。
『ライオン・キング』は珍しく親子の話が中心ですが・・・苦手な親子の話だっただけに『ジャングル大帝』のパクリだなんて言われてしまったのかもしれませんね。

そこで同じバケモノと子供の話である『千と千尋〜』と『モンスターズ・インク』を比較してみると、やっぱり親子を描いているかどうかの違いは感じてしまうのね。
『モンスターズ・インク』はピクサー作品で純粋なディズニー作品ではないという見方もあるかもわからんけど、今やディズニー社の看板のひとつにもなってますからね。シナリオを練る段階からディズニー社の意見は充分入ってると見るのが妥当じゃないかな。

無論、シナリオの構成上、余分なものは省くのは当然なんだけど・・・子供が主人公の話で親のことが余分なものになってしまうのは、やっぱりちょっと不自然かもしれんなぁ。物語はもちろん非現実の話。だけど、それだけに現実の感情がその中にうまく描き出されているかどうかで作品の深みも変わってくるでしょう。

『モンスターズ・インク』で言えば、モンスターを追いかけて遊んでいた子供が、やがて眠くなる。眠くなったり腹が減ったりしたら、子供は真っ先に母親を呼ぶのね。母親を呼んだ時、モンスターたちがどんなに困って、またどういう手を使ってなだめるか・・・そんな場面があっても作品の構成は崩れないし、モンスター自体が自分の親を思い出したりしてもよかった気はするなぁ。
『モンスターズ・インク』は92分の作品。たとえ、あと10分、15分長くても決して長すぎないんじゃないかしらね。


■プロの語り口に学べ

さて、何だかんだ言っても・・・ディズニー作品は強いですね。
『モンスターズ・インク』のDVD、ビデオカセットが米国とカナダで発売から1週間に1100万本売れ、売上新記録を達成しました。
これまでの史上最高記録は『ライオン・キング』の3200万本。発売初日だけで450万本を売ったそうですが、『モンスターズ・インク』はその記録を上回る500万本を売り、まだ売れ続けてる。スゴイもんやなぁ。

『ライオン・キング』発売の時点では、まだDVDはなくビデオだけでしたが、『モンスターズ・インク』の場合、売れている6割がDVD。DVDがかなり家庭に浸透してきたことがわかりますね。
景気が悪い方が、かえって家庭内で楽しめるものの需要が増えることもあるでしょう。

『もののけ姫』に続いて『千と千尋〜』も世界配給はディズニー社がやりますね。しかも英語吹き替え版はピクサーで作るという話。
ピクサーのスタッフは宮崎監督を「今最も優秀な監督のひとり」と絶賛したうえで、『千と千尋〜』を「アクションが素晴らしい作品」と評しています。

アクション・・・『モンスターズ・インク』もクライマックスはハラハラドキドキのアクション、アクションの連続。
やっぱり映画はムービーですから動きが重要ですね。動くことによって観ている人を楽しませるのが映画の原点。宮崎監督といえば『ルパン三世/カリオストロの城』を観てもわかるように、アクション・シーンに力のある監督。ピクサーのスタッフが言うように『千と千尋〜』でもさまざまなアクション・・・しかもアニメでなければ表現できないようなアクションをたくさん見せてくれました。

いかに内容のいい話でも語り口を間違えると、誰も聞いてくれませんね。
映画の語り口・・・それがアクションと言っても過言ではないでしょう。
逆を言えば、語り口さえ良ければ内容はともあれ、つい観てしまいますね。まるで通販番組の商品をつい買ってしまうみたいにね。

そのうえで、買ったお客さんが本当に得をしたと思うか、それとも後で損をしたと感じるか・・・それによって次回作につながるかどうかが決まります。
厳しい言い方をすれば観てもらえないものは、いくらいいと思って作っても次回作にはつながりませんね。

美しい話、ちょっと面白い話なら、どんな人だって日常生活の中で出会っています。
それをどう語るかが、プロとアマの差ですね。

とくに映画監督を目指す人でなくても、仕事やプライベートのうえで、ここ一番! うまく語って相手の気持ちを自分の方に向けなければならないことは間々あります。
そんな時のためにも、優れたプロの語り部たちの作品にふれて、楽しみながら学習することは大きな人生の糧になりますね。


さて、今回も長い長い話をしてしまいました。うまく語れていたかどうかは、ちょっと自信がありませんけれど・・・。
また、このページでお逢いしましょ。
それでは・・・サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。


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