でじたけ流 教育論「タイヤ交換教室 」
 
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20161127

でじたけ流 教育論851回「タイヤ交換教室」

でじたけ流教育論 digitake.com


関東地方に54年ぶりで11月に雪が降った。

54年前の春、東京に生まれた自分は
7ヶ月の赤ん坊だったわけだが、もちろん記憶はない。

おそらくまだ若かった両親は
生まれて初めての雪を
赤ん坊に自分に見せつけたことだろう。

そして54年後の雪の降る前の晩、
赤ん坊はいい年の親父になり、
ガレージからスタッドレスタイヤを引っ張り出して、
積雪に備えていた。

タイヤをひとつはずしかけたところで、
ハタとこれは息子に手伝わさなければならない
…と思い立ち、玄関口から大声で次男を呼んだ。

最初に飛び出て来たのはカミさんで、
手伝おうか…と言ったが断った。

タイヤ交換という経験を
息子にさせることが目的だったから。

嫌がることもなく
次男はセーターを着込んで出て来た。

ジャッキをかける位置、
十字レンチへの力のかけ方などを
説明しながら作業を進めた。

本当はペーパードライバーの長男にこそ
必要な体験であったに違いないが、
あいにく長男は大学に泊まりで留守だった。

高校2年の次男は
ジャッキで車を押し上げることも、
十字レンチをまわすことも初体験だ。

自分が学生の頃は、中学になると
男子は技術科、女子は家庭科に別れていたが、
今は何でも男女平等で
同じように技術も家庭もやる。

しかも高校に上がると先端科目によって
技術をとらないことも多く、
自分たちの頃と比べて
技術で学ぶ時間は半分以下と言っていい。

確かに、
よほど職人をめざして専門学校にでも行かなければ、
受験勉強には関係の薄い科目ではある。

ところが日常生活においては、
数学や物理などより、
もっと身近な知識が技術にはあるはずだ。

案の定、次男は
ナットを対角線上に締めてゆく
…ということさえ知らなかった。

ジャッキアップしている車に近づく危険性や、
普段は運ぶことのないタイヤの重みも、
知ると知らないでは、
いざという時の判断に
大きな狂いが生じてしまうだろう。

それは受験という、
あらかじめ日程が決まっていて、
やることも決まっているものとは違う、
予想外の日常生活のために必要な知恵である。

4本のタイヤすべてを交換し終わる頃には、
次男の十字レンチの扱いや増し締めの仕方も、
なかなか堂に入ってきていた。

いざという時…というのは何も
天災が来た時だけではない。

彼女とドライブに出かけてパンクした時、
パパッとスペアタイヤを下ろし、
腕の筋肉を隆起させながら
タイヤの交換にかかる男の方が、
JAFに電話がつながらないと
苛立ちを見せるような優男より、
どんなに逞しく見えるか知れない。

男女を差別するのはよくないが、
区別は必要である…というのが持論だ。

せっかく違うものを同じに扱っては、
別に宗教論者ではないが神様に申し訳がない。

その区別に見合う強さは
学校で教わるものではないだろう。

こうして
54年ぶりに降ったという11月の関東の雪は、
54年前に初めて雪を見た男の息子に
タイヤ交換の仕方を教えた。

やっぱり…人生、日々更新。

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